手を握る

時間を逆行することは可能だった。
ただ、過去を過去として知っているのだから、注意しなければいけないことは多々ある。
もともとはその場にいるはずもない人間がいるのだから。
しかし、創造主がそのことも計算に入れて物語を書いているのだとしたら、どうなるのだろう。
私自身に意志はあるのか。
私の自発的な行動は、自発だと思っているだけで、実は自発的だと思わせるような――私自身が操られているとか――物語だったら。
しかし、考えるだけでも畏ろしいような、背徳のような気がしてくるので不思議なものだ。

「ねぇ、伊佐間さん」

「うん」

「もうそろそろお別れですね」

正直言えば、別れたくない。
けれど、私は存在してはいけない人間なのだから、帰るしかないのだろう。
どうせ、ここにいても危険なのだから。
異物を取り込んでしまった世界は、その異物を排除しようとした。
それは仕方の無いことだと思う。
心残りがあるとすれば、榎木津さんに謝罪をできなかったことくらいだ。
彼は私が未来から来たと知っているし、何かと助けてもらったから、せめてお礼は言いたかった。

「行っちゃうんだね」

「この状況では仕方ないですから」

今の私は非常にアンバランスだ。
体が動かない。
動いているところは心臓と顔だけ。
そして少しずつ、動かなくなる。
この時代に来たときと、同じだ。
完全に動かなくなったとき、私はどこに行くのだろうか。
元の時間に戻られるのだろうか。
それとも、もっと別の時間や世界に行ってしまうのだろうか。

「でも、伊佐間さん。会えなくなるわけじゃないんですから、そんな――」

悲しそうな顔、しないでください。
そう続けるつもりだったのに、それは伊佐間さんによって遮られた。
唇に柔らかいものが当たって、伊佐間さんの顔が目の前にあって、これは――。
伊佐間さんは唇を離すと言った。

「うん」

こんなときまで、うんしか言わないのか。
そんなことに感心してしまった。

「また会いましょう」







手を握れば、離れられない

目をあけたとき、目の前には伊佐間さんが

(あれ、何で伊佐間さんが?)
(うん。行かせないよ)
(ええ!)
(そばにいてね)


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bkm
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