悪戯をしてみる。
「中禅寺さん。ピザって10回云ってください」
「ああ、それは肘を指差して膝と答えさせようとする質の悪い悪戯だね」
「ばれてましたか……」
それでは話にならない。
うーん、残念。
「関口くんなら簡単に引っ掛かるだろうさ」
という中禅寺さんの情報により、関口さんのもとへ。
「関口さーん」
「春子さん、どうしたんだい」
「唐突ですがピザって10回云ってくれませんか?」
「え、いいけど――ピザ、ピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
私は肘を指差して「それではここは?」と云った。
「膝だろう?」
「やった!引っ掛かった!」
「え……ああ、そうか。肘か」
「からかってすみません。本当は中禅寺さんが引っ掛かったら面白いなと思ったんですけど――」
それは楽しそうだなぁと関口さんは云った。
「それで、これお詫びです。中禅寺さん用で申し訳ないんですけど……」
「最中?」
「ええ。奥さんと二人でお食べください」
「すまないね。高がピザを10回云っただけなのに」
「いえいえ。中禅寺さんに怒られることを覚悟していたので、これはその時の生け贄に持ってきたんです。結局嵌められませんでしたから」
私は最中を渡し、次の目的地へと向かった。
次は榎木津さんである。
「榎木津さん」
「春ちゃん。京極と猿に会ってきたな」
「すみません」
私は何で謝らなければいけないんだろう。悪い事をしただろうか。
「今度からはまず僕の処に来るんだ!」
「えー、相変わらず我儘ですね」
「僕は神だからいいんだッ!」
そういう問題なのか。
まぁ、そんなことを榎木津さんに云ったって始まらない。榎木津さんは傍若無人でこそ榎木津さんだ。いや、人無きがごとしではなく人と思っていないのだ。榎木津さんにとって、殆どの人は下僕だし、そうでない人は中禅寺さんとご家族、そして嫌いな人だ。
――あれ、私はどこに居るんだろう。
「榎木津さんにとって、私は下僕ですか?」
私は聞いた。
気になる事はそのままにしておいてはいけない。というより私から云わせれば、そのままにしておけるということは所詮その程度なのだ。
「春ちゃんは僕の恋人だ」
「それって下僕と別格なんですか?」
「当たり前だろう」
それも、そうか。
ふつう恋人と下僕を同列で考える人は居ない。
「じゃあ、私は榎木津さんの特別ですか?」
「愚問だな」
「愛が溢れてますね」
何となく恥ずかしくなって、私はそんなことを云った。
そうしたら榎木津さんは見惚れるような笑みを湛えて「春ちゃんもね」と云った。
恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。
何だか墓穴を掘ったよう――いや、これは間違いなく墓穴を掘ったのだ。
「私は、榎木津さんの事好きですから」
「僕は誰よりも愛してるよ。神の隣に座するのは春ちゃんだけだッ」
やめて!
私を赤面症で殺す気!?と云いたかった。
(Sugar days!)
prev next
bkm