学校が終わって、すぐに家に帰った。
ただいま…。
そう言っても返事はない。
数年前に家族がバラバラになった。それからは一人でここに住んでいる。
父も、母も、兄も、この家を去った。
私に何も言わず、最初は母だった。次に兄。その次に父。
ずっと前から1人で住んでいるのに、やはり“お帰り”の返事がなかったら寂しいものだ。
学校へ行けば、みんなが仲良くしてくれたので、私はそれなりに学校が好きだった。
しかし、事情がありしばらくしてその学校を離れた。
今の生活に余裕はあるものの、それもあと1年もつか持たないか。
バイトもそろそろ探さなければならないだろう。
「あ、何もないアル」
少しだけ、小腹がすいたので冷蔵庫を覗く。
見事なまでに何もない。
買い物に行かなければならないと思い、私服に着替えて、引き出しの中に入っている財布を手に家を飛び出した。
「あっついナ」
外は真夏とだけあって、視線を遠くへやると陽炎がムンムンとあがっている。
陽に弱いこの身としては少々きつい。
太陽の陽が高い日はその熱を憎んだ。
家から20分ほど歩くと、スーパーが見えてきた。ので、中に入って必要な食材を買う。
夏場は生肉が腐りやすいので、出来るだけ生肉は避ける。
冷凍食品のコーナーへ行き、自分の弁当のおかずとなるものを手に取ろうとした。
スッ―――……
『あ』
「あ…ごめんなさい」
「いいえ」
そう言って、私はその食材に手を伸ばし直す。
「あ、あのさ」
「?」
「俺、沖田ってんでさァ」
「沖田?」
沖田、沖田…
どこかで聞いた事のあるような名前だった。
でも、どこだろう?
「え、えっと。か、神楽アル」
「知ってる」
「は?」
「この前転入してきた奴だろィ?」
「え、うん。」
「お前と同じクラスの沖田」
「あぁ…」
だからどこかで聞いたような名前だったのか。
その後、私たちはお互いのアドレスを交換して、帰路に着いた。
学校を転入して初めて出来た“友達”だ。
気分が良くなった。
手に持った袋がシャカシャカと音をたてて私の歩くリズムに乗ってついて来る。
気がつけば玄関の前。
あけっぱなしの玄関のドアを開けて、視線を薄暗い廊下に移した。
―――ただいま。
ほら、やっぱり返事はない――