※オリキャラ






ぬらり、と影が現れた。
どす黒い影に、村人は震えた。
タラリ、と冷や汗が流れるのが分かる。

ツーっと、額を流れる汗が、頬を伝い顎から垂れる。
と、同時に影が動きだした。
一歩一歩、心のどこかに恐怖を刻み込まれるような黒い影の歩みに、村人たちは、ただ、助けを求めることしかできなかった。

村人の一人が、小さな子どもを庇うように抱きしめる。
ある者は叫び、ある者は涙し、またある者は、恐怖のあまり笑っている。

黒い影は、内の一人を……


ギィィヤァァァア!!!!

その叫びは、絶えることなく続いていた。




* * *



「お前のせいであの店入店禁止になっちゃったアル」

「何言ってんでさァ。テメーのせいだろィ。あの店結構気に入ってたのに」

「まぁいいアル。変装してでももう一回行くネ!」

神楽が、右手に拳を作りながら大声で言う。
それを、沖田が気づかれないように小さく笑い、周囲の人間は、二人にかかわらないように避けるようにして通り過ぎる。

「だいたい、何が悲しくてこんなくそサドと街中を歩かなきゃならないネ。恥アル」

「俺だって恥でさァ。でもなァ、テメーが真選組に居る限り、テメーは隊士として扱われるんでさァ。こんな日とかに、俺と隣歩いて慣らせておいた方がいいだろィ?」

「うー…そういう問題アルか?」

「そーいう問題なんでさァ」

首をひねって、考える神楽を横にに、沖田は自分がどうしてあんな脈絡ないようなことを言ったのか不思議に思った。
まるで、このチャイナ娘に惹かれているかのような、そんな言葉。

「虫唾が走らァ」

「何がヨ」

「テメーには関係ねえよ」

沖田は、自分が作った拳を、神楽の頭に乗せて軽く叩いた。
しかし、それに驚いたのは沖田自身だった。
突っかかってくると思われた神楽が、なぜか何も反撃してこない。
それこそ、不思議に思い、傘の下から神楽の顔を覗き込むように見やった。

「チャイナ?」

「………」

神楽は、黙ったまま一点を見つめていた。
神楽の視線を沖田は追いかける。
その先にあったのは、3、4歳くらいの小さな女の子だった。

神楽は、沖田の呼びかけを無視すると、女の子の方へ寄って行った。
そして、女の子の前にしゃがみこんでいった。

「どーしたアルカ?こんな所で、あなたのマミーはどこに行ったネ?」

「……ママ?…ママは、死んじゃった……ヒグッ…ぅえ…」

いきなり泣きだした女の子に、神楽はたじろく。
そして、女の子はあろうことか、神楽に抱きつき、ママー!と大きく叫んでは泣いた。
そして、時間が経ち、女の子は疲れて眠ってしまった。





「おい、チャイナ」

「何アルカ」

「その餓鬼、どーするんでさァ」

神楽の腕の中でぐっすりと眠る女の子をイライラしながら沖田がたずねる。
神楽は、大事そうに抱えて言った。

「この子、一人だったのヨ。寂しかったアル。ほら、こんなに小さいのに…足がまめだらけ。ここまで来るのに、きっとすごく疲れてたアルよ」

小さくほほ笑みながら、神楽は言った。
そして、すぐに真剣な顔になるとまるで、独り言のように言った。


「似てるアル。私に」



* * *



「で、どーすんだ。この餓鬼」

土方が、眉を吊り上げながら視線を、神楽に抱きついて離れない女の子に向けながら言った。

「うーん。どーしたいアルカ?」

「マーマと一緒にいたいよ」

「だそーアル」

「名前とかちゃんと聞いたのか?」

土方は、溜息をつきながら煙草をふかした。

「聞いてるヨ。かなめアルちなみに、3歳ヨ」

どうやら、土方と言う人間は、神楽にはどうも甘いようで…。
別に、それは好意とかそんなものではないが、妹のような感覚なのだろう。

「テメーでちゃんと世話するならなどーしてもいい」

言われるや否や、神楽とかなめは二人ではしゃいで笑い合った。
それは、親子のような、姉妹のようなそんな雰囲気さえ漂わせるようなもの。

「ただし、今の現状を忘れるな。本当はこんなことしてる場合じゃねえんだぜ」

「分かってるヨ。ニコチン。じゃ、かなめ、一緒に向こう行くアル」

「うん。マーマ」

かなめは、神楽に抱っこを願い、神楽はそれを嫌とも言わず、むしろ嬉しそうにして笑いあいながら出て行った。

残されは土方、近藤、山崎は、いっせいに沖田を見た。


「おい、マーマってどう言う事だよ!」

「あぁ。カアチャンみたいからだったじゃねえ?」

「まぁ、チャイナさんはお母さんにも向いているからな」

「そーですかィ?」

「チャイナさんはきっといいお母さんになりますよ」

「そーには見えねえぜィ?」

「あのさ、総悟。ちょっといいか?」

「何ですかィ」

「餓鬼相手に嫉妬するのは止めろ」

「は?嫉妬?」

沖田は、いったい何がどうなっているのか分からないといったような、そんな表情さえしていた。





離す事が出来ないのは、同情?
それとも…






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