袴から普段着であるチャイナ服に着替えた。
この日は、神楽も沖田も非番であった。
そのため、昔では考えられなかったのだが、二人で外へ出ることにした。
神楽の方は、不本意であったのだが。
外を歩きはじめて、神楽が口を開いた。
「なぁ、サド。九年前の事件って覚えてるアルカ?」
「は?九年前?…知んねえけど…。それがどーしたんでィ」
「…知らないなら、……なんでもないアル!!ほら、まだ朝ご飯食べてなかったネ!食堂に連れていくヨロシ!財布はお前アル!」
「はァ。誘うんじゃなかった」
溜息を吐きながら、沖田は自分の財布を取り出して中身を見た。
福沢さんが2枚と野口さんが5枚。
これならばいけるだろうと思った沖田は、サッサカと前を行く神楽を小走りで追いかけた。
* * *
その頃、真選組屯所内では、土方がタバコの煙を立たせながらイライラしていた。
「チクショー。マヨネーズが無いんだけど」
「副長、マヨネーズだったら冷蔵庫の中にいれましたよ」
山崎が、土方を宥めている。
そんな山崎の隣で、近藤はなにやらガサガサと神のようなものを扱っていた。
「局長?なにをしてるんです?」
「あぁ。………お、お妙さんの写真を収めているんだ!!」
「局長…アンタ、ストーカーもほどほどにしてくださいよ。アンタだけに害があるのはいいけど、こっちにも被害が及ぶんだから…」
そう言いながら山崎は腰を上げる。
「ん。山崎ィ、どこ行く気だ?あ゛ァ?」
「え…えっと、調査に行って来ます!」
「じゃあその手に持ているのはなんだ?」
「い、いやだなぁ〜。副長。これはただの棒ですよ。棒」
そう言うや否や、山崎は全力疾走で廊下を走って行ってしまった。
土方は、その光景に舌打ちをしながら、残り少ないマヨネーズを、ちゅっちゅと奇妙な音をたてて吸っていた。
「あれ、そう言えばチャイナ娘と総悟はどこに行ったんだよ」
土方は、不と疑問に思っていたことを近藤に尋ねた。
「あぁ。総悟とチャイナさんなら二人で出掛けたよ。総悟も青春しているな!!」
「店とか、潰さなきゃいいけどな…」
「ハハハ!!!」
近藤は、大口を開けて笑い、土方の方は、はぁーっとため息をついていた。
「さ、俺たちは仕事だ。例の事件は原田が追ってくれているはずだ。その他十番隊もな」
「あぁ。お上様(上官)が絡んでることは確かだが、完全な証拠がねえ。…困ったもんだぜ。まったく」
「しかし、まぁ。人間が1日でそう簡単に消えることが出来るのか?怪奇現象…だな」
「はっ、怪奇現象なんてまっぴら御免被るぜ。俺ァ」
「おおトシ、奇遇だな。俺も同意見だ」
眉を寄せて、頬を緩めて微笑する土方に、近藤はかすかに不安を抱いた。
それは、土方も同じであって、この先、まだ何か事件があるであろう事を予測していた。
それと同時に近藤は、何か、とても大切な重要な何かを忘れている気がしてならなかった。
それが一体、なにかも分からぬ状況で、ましてや、ただ、脳裏をかすめただけの感覚。
次の隊士の声で、その不思議な感覚を忘れさせるには十分だった。
「きょ、局長!沖田隊長と神楽さんが店を四分の三半壊しました!!」
そんな情報に、近藤、土方は目を合わせて、ひとつ溜息を吐くと隊士に言った。
『いや、それ半壊じゃねーじゃん』
盲目の世界
見える筈なのに見えなくて