珍しく、朝早くに目が覚めた神楽は縁側に座って、右手を朝日にかざしていた。
寝巻用に、と、持参していたチャイナドレスは、いつの間にか袴に変わっていた。

「うーん。やっぱり袴は着崩れするアルな。面倒臭いヨ」

「ははは、そうかそうか。袴は着崩れしやすいからな!」

「ゴリ。おはようございますヨー」

「あぁ、おはよう。今朝は少し寒かったかな?」

「ちょっとだけヨ。いつも寒いアル」

そう言って、神楽は寒さを表すかのように両腕を胸の前で交差して擦るマネをする。
近藤はそれを見て、ガハハと大きく笑い、神楽の頭に手を乗せて、ゆさゆさと撫でた。
その手は大きくて、銀ちゃんとはまた違うお父さんのような手だった。

「……髪がぼさぼさアル。…でも、ここの奴らがゴリを慕ってる理由が少し分かったヨ」

「俺を慕っている理由?」

「うん」

「そうか?俺は、こんな俺に付いて来てくれるここの奴らを頼もしく思うよ」

そう言うと、近藤は、神楽の隣に腰をおろした。
神楽はそれを横目に見つめていた。

「九年前にもな、この前のような事件があったんだ」

「え?…って言うと、あの村みたいな?」

「あぁ」

近藤は、袴の袖から何やら紙を取り出した。
それを神楽に渡しながら言う。

「九年前。あれは今日みたいな寒い日の事だった。美作国と言う処が三陽道にある。その美作国の勝間田郡で内乱が起こったんだ。内乱こそは小さなものだったんだが、地方政府がそれに加わったことで、内乱は悪化した。後に勝南郡と勝北郡に分かれその後も少しの間は内乱が続いた」

近藤は、一息つくとまた話し始めた。

「それが、ある時ふと止んだんだ」

「内乱が急に、アルカ?」

「あぁ。勝北郡が勝南郡に向かったんだ。もちろん、内乱の為に。それには地方政府も加わっていた。そして、政府軍の兵に一人が勝北郡に入った。そして気づいたんだ。…誰もいない事に」

「それって」

「まさに。今回の事件と十数年前の事件とリンクしているだろう?」

神楽は、眉間にしわを寄せた。
そして、近藤に疑問をぶつけようとした時…

「じゃあ、俺はここで失礼するよ。いくらお妙さん一筋だと言ってもね、嫉妬する子供が居るからな!」

近藤は腰を上げると、そのまま自室の方へ去って行った。
神楽は、その様子をただジッと見つめていたが、人の気配を感じると、その気配の先を見つめた。

「なんだ。お前アルカ」

「俺じゃ悪ィかよ」

「別に。どーでもいい事アル」

「チャイナうざい」

気配の原は、沖田だった。
今度は沖田が、神楽の隣に腰を下ろす。

「なぁ」

「なにヨ」

「ちょっと、出かけねえかィ?」

「どこに?」

分かんねえ。

そう言う沖田に、神楽は小さくため息をついたが、息を吸いなおして沖田に言った。


「こんな美しい女と出かけるアル。つまんなかったら承知しないネ」

そう言ってのける神楽に、沖田は鼻を鳴らして言いかえす。




「ばーか。こんな超カッコいい俺と出かける事が出来る事に感謝しろィ」






ひらりと舞うのは黒墨のような灰だけ





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●美作国(みまさかのくに)
かつて日本の地方行政区分だった国の一つ
●三陽道
古代の行政区画、あるいはその地域の幹線道路


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