「それでは、報告を頼む」
朝一で、真選組隊士一番隊から十番隊の隊長格ら十名が集められた。
例外として、神楽もその場に居合わせて話、情報交換をしている。
ではまず一番隊から。
近藤のその声に
「へい。先日から二度続く村、及び村人失踪事件。昨日、零時四十三分山火事との通報がありやした。現場村付近に民家はなし。現場は山奥にあり、通報者は現場の村から山麓での通報。俺たちが駆け付けた時には、すでに村人は誰一人として生存者はなかったですぜ」
「分かった。じゃあ次。二番隊」
「はい。我々二番隊が、明朝現場へ行ったときは、死体が二体。妊婦でした」
神楽はそう聞くと、無意識のうちにグッと握り拳に力を入れていた。
神楽自身は気づかないものの、傍らに居た沖田、土方は気づいていたようだ。
二番隊はまたも話を続ける。
「遺体はどちらも焼死。しかし、その点に対しておかしな事がいくつかあります」
「なんだ?」
「はい。一つは、短時間での村人の不明。そして、ひとつは、焼死体である二体は焼死なのですが、その民家には火元並びに、焼けあとが見当たりません」
「焼け跡が見当たらない?」
「はい。詳しい事は、今、五番隊が調べています。詳しい事が分かり次第、局長へ」
「わかった。じゃあ――…」
* * *
情報交換が終わると、神楽は沖田のもとへとかけ寄った。
「おい、サド!」
「何でィ、チャイナ」
「この間、聞きそびれたことがアルネ」
「聞き忘れた事?………あぁ。あれか。……聞きたいかィ?」
「当たり前アル!!」
沖田は、そう言う神楽を、ちょいちょいと指を使って寄せるそぶりを見せて、神楽の耳元に唇を寄せる。
そして――・・・
「ワッ!!!!」
神楽の耳の傍で大声を出した。
いきなりの出来事に、神楽の頭の中は真っ白になり、数秒遅れて頭にキーンと来るようなショックに見舞われた。
「何すんだ!クソガキ!!」
「油断したテメーが悪ィ。油断大敵ってのはこの事でさァ」
「クソサドガァァア!!」
神楽は、お返しと言わんばかりに沖田の殴りかかった。
沖田は神楽の鉄拳を軽々と避ける。
そして、二人は今起こっている事件が無かったかのような、はたまた、昔に戻ったようなそんな雰囲気の中喧嘩をしていた。
「ハハハッ、何だか昔に戻ったみたいだな!」
「こっちにしちゃあ、迷惑極まりないけどな」
「硬い事言うなよ、トシ。あの二人にはあれがいいんだ。俺も、一瞬、事件の事なんて忘れたぞ!ガハハハハッ!!」
「……まぁ、そうかもな」
土方は、フッと笑い、そして真剣な顔つきになって喧嘩している二人を眺めた。
「今、この状態が続けば、どれだけ幸せだろーな」
土方のつぶやきは、タバコの煙のように、空に舞って消えて行った。
* * *
その頃、銀時、新八の二人は新八の実家である志村邸に来ていた。
「姉上、今日はお仕事お休みだったんですね!最近、あんまり顔を見ていないので」
「えぇ。今日は特別にお休みを貰ったのよ。あまり眠れていないから、今日はゆっくり眠らせてもらったわ」
いつものように、ニコニコとした笑顔で出迎えてくれたお妙に、新八は笑顔を隠せないでいた。
銀時は、そんな新八を、もとより、死んだ魚の目のような目で見ていた。
それに気づいたのか、新八は、銀時に向かってなんですか≠ニ、冷たく言い放ったが、銀時は怯む事無くなーんにも〜≠ニだけ言うと、志村邸へと入って行った。
中へ入ると、甘い花の匂いがぷんぷんとしていた。
「おい、これ何のにおいだよ。あまっ!」
「あら、それはヘドロさんから頂いたのよ?とっても綺麗な花だったからつい…」
「つい…≠カゃないですよ、姉上。怖くなかったんですか?」
「えぇ、とてもいい人だったわ。顔は別として」
「……怖かったんですね」
ははは、と笑う新八に冷や汗をかいた銀時。
そんな彼らに、お妙はにこやかに笑っていた。
その時。
「あれー。銀さんじゃないか。久しぶりじゃねえの?あ、お妙ちゃん、お邪魔するねー」
そう言って、陽気に入って来たのはマダオこと、長谷川泰三だった。
サングラスは、綺麗に磨かれているものの、身に纏っている着物は最悪な事になっていた。
「なになに、はせがわすゎーん。またギャーンブルに失敗したの?」
ニヤニヤしながら傍による銀時に、長谷川はにたぁと笑い、しかしながら、サングラスのはしからは、ツ――っと液体が流れ出ていた。
「まさかー。ははっ、俺は、このグラサンだけは守り通したよ」
「負けちゃったんですね」
新八の冷たいツッコミに、長谷川は、盛大に涙したのであった。
「あら、そうだわ」
「どうしたんです?姉上」
「最近、神楽ちゃんを見ていないの。どこに居るのかしら」
ハッとした新八と銀時。
二人は顔を見合せて、溜息をもらしながら、今回の事件についてはなにも言わずに、神楽が真選組に仮入隊したことだけを話した。
* * *
沖田は、自室に戻って、机を前にして溜息を吐いた。
そして、一枚の紙を前にしている。
今まで調べた事をまとめていたのだ。
「……言えるわけ、ねえよな。今回の事件に、夜兎が関わってるかも知れない≠ネんて」
沖田は煉獄間での事を思い出していた。
あの時、かかわっていたのは天導衆。
以前のある事件でとっ捕まえた天導衆の下っ端から聞きだしたことなのだが、そいつは確かに春雨≠ニ言った。と言う事を沖田は知っている。
神楽から聞いた話によると、神楽の兄は春雨で動いているらしい。
もしかしたら。
という路線もあながち外れてはいないだろうと沖田は悟ったのだ。
そして、この事を話せば、正義感の強い神楽の事だ。
勝手に一人で捜査を進めて一人で乗り込んでいくに違いない。
そうも、同時に思った沖田は、この事は神楽には内密にして先に近藤達に伝えることにした。
「………どうせ直ぐバレるんでィ。アイツが居る今の生活を楽しみたいじゃねえか」
その言葉の本心に、沖田は気づいているものの、それを表に出すのは癖なので、今は事件に集中する事にした。
真実の足音
それは着々と音を刻んでいた