まだ、真昼間だと言うのに外は暗闇のように暗い。
ポツリポツリと滴る雨は、屋根を伝って彼らの頬に落ちた。

「ま、待ってくれ!!この子らの命だけは…、私が身代わりになる!だから、この子たちの命だけは助けてくれ!!」

「無用だ」

振り上げられた刀は、何の迷いもなく振り下ろされた――…




* * *



「今日は雨、か」

土方は市中見回りの最中だった。
今朝のニュースで雨が降るのは知っていたので、傘は持ってきていた。
そこまでひどい雨ではなく、小雨ほどだったので傘は差さないでいいだろうと思ったのだが、時間が経つにつれ次第にひどいものになっていた。
屯所に着いたころには頭の先から足の先までもがびしょびしょになっており、隊服の裾からは雫が滴り落ちていた。

「あ、副長。お疲れ様です」

タオルを持った山崎が、急ぎ足で土方へ向かって言った。
タオルを受け取って土方は頭を湿らせている水分をわしゃわしゃと拭く。不意に思いだしたのか、土方はポケットから煙草の箱を取り出した。
タバコの箱は湿っていたものの、中身は無事だったことに土方はひどく安心した。

「山崎、近藤さんはどうした」

「局長なら今京に居られる松平のとっつぁんのところに行ってます。なんでも、今回の事件についてらしいんですが、たぶん…」

「たぶん、なんだ?」

「あ、はい。今、副長達も調べていると思うんですが、例のあの事件の事でしょう。確かにあれは肥前の国だけで起こった事ですが、あまりにも大きすぎる。けれど表沙汰にはならないのはおかしいでしょう?あの事件は、肥前の国だけで起こった事ではない。ましてや、その周辺の離れ小島は『彼ら』に利用されて無人島状態。それでも、離れ小島だったとしても肥前の国、つまり、西海道の肥前には少なからずとも親類は居たはずなんです」

山崎は、昨夜近藤に話した事をそのままに言った。
その話を聞いた土方は、目を大きく開き、タバコに火をつけるのを止めた。
そして、タラリと額を流れるのが冷や汗だと感じた。

「なぁ山崎。つまり何だ。おめーが言いたいのは…その肥前で起こった事件をそのままもみ消した≠チて言いたいのか?」

「簡単に言うとそう言う事です」

土方は、はぁーっと一つ大きなため息をつくと、キッと山崎を睨んで言った。

「近藤さんが帰って来るのは」

「はい。たぶん、1時間ほど前に向かったので2時間ほどで帰ってくると思います」

「分かった。…総悟とチャイナ娘を、今から約2時間後に局長室へ来るように知らせといてくれ」

「がってんで!」



* * *


その頃、万事屋では銀時に何やら頼まれた新八が荒ただしく本を読んでいた。

「銀さん、どれもこれも銀さんが言うような事件は何にもないですよ。それに、表沙汰になってないなら尚更ですよ。こんな資料調べても意味はないんじゃ…」

「ぱっつぁんよォ。意味がないわけじゃねえだろ?調べた結果が『ない』。それだけだ。それも良い結果だからな」

「銀さん、だったら大江戸図書館に行ってみませんか?あそこだったら何か分かるかも知れませんよ」

「そうだな。でも、そこに行くのはまだ後だ。先に行っとかなきゃいけねえ所がある」

そう言うと、銀時は愛刀である洞爺湖を腰にさして襖を潜り抜けた。
歩くたびにミシミシと鳴る床に、過ぎ去った時が連想される。

「行かなきゃならないところ、ですか」

「あぁ。行かなきゃならねえ」

そう言って、銀時、新八は万事屋を後にした。










「銀さん」

「んふぉ、あんだほ、ひんはちー(んぁ、何だよ、新八ー)」

「やらなきゃいけない事ってこれですか」

そう言う新八の目の前には、大量のパフェやら甘味が広がっていた。
少々、呆れたようなそんな目で新八は銀時を見つめていたのだが、急に真剣な表情になった銀時に、体を硬くした。

「ぱっつぁん、今回の依頼はンな簡単なもんじゃねえ。きっと、でけえもんになる。俺はそんな気がする」

「…そうですよね。銀さんたちの話を聞いていて僕も思いました。大きすぎる事件なのに、小さいなんて」

「あぁ。しまいにゃ幕臣も、しかも上官が絡んでるしな。真選組でもそこそこは情報を集めてるとは思うが、そんなに多くはねえだろう。神楽にも一応は言ってるんだ。何かつかんだら情報交換なって」

「そうでしたね。それに、神楽ちゃんから貰っている情報も右手三本分。上官が隠したいとなればそれ相応の対処はしてるはずですしね」

新八は、肩を垂れながら言った。
それを見た銀時もパフェを食べる手を止めて溜息を吐く。
溜息を吐くと幸せが逃げると言うが、本当の事のように思えた。





既にレールは敷かれているのに






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●西海道…今で言う九州。





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