最近では、朝方になると寒気がする。
夏布団でも欲しいものだ。
そう考えていたのはつい最近までであって、今では夏布団はあるは、自室はあるはで結構楽な生活はしている。と、神楽は思った。
予備の隊服を配布された神楽は、いつも決まって8時に起きていた。
以前、今回の事件のため真選組に依頼を受けた日は、前日にエイリアンハンターの仕事があったので寝坊をしていたのだが、最近はこちらの仕事が優先と考え、エイリアンハンターの仕事は他に回してある。

予備の隊服に腕を通し、スカーフを付ける。
生憎、隊長格の隊服しかなかったために仕方なくそれを着ているのだが、もう直したら隊服が来るらしい。
それまでの辛抱だと近藤に言われた神楽は、腰に傘をさして自室を出た。

「おはようございます!神楽さん!」

「あ、…あぁ。おはようアル」

口ぐちに挨拶をしてくる隊員に、正直もう挨拶なんてするな。と、思っていたのだが、あいさつはスキンシップだ。と、以前銀時に言われたことを思い出したのか、頭をフルフルと横に振って、顔をパシンと軽く叩いた。

「さ、今日も張り切っていくアル!」




* * *



「お、チャイナさん、今日もやってるな!」

中庭を見て近藤は言った。その隣に居るのは土方。
近藤は、神楽を微笑ましく見ていた。

「娘が出来たみたいだな!」

「俺はあんな娘はいらねえ」

そう言って、タバコに火をつける土方に、近藤は軽く笑うと、また視線を神楽に向けた。
その瞳は、まるで本当の娘を見るかのような暖かい眼差し。

「まあ、うちの隊にもあれだけ鍛練に取り組む奴が居ればいいけどな」

「体を動かすことが好きなのさ。好きにやらせればいい。…チャイナさん!そろそろ終わろうか!朝飯だ!」

そう大声で叫べば、鍛練なんかすっとばしてこちらへかけてくる神楽。
ここでの生活も幾分慣れたのであろう、そんな雰囲気だった。

「はっ、食い意地の張った、ただの餓鬼だよ」

土方はそう言うと、小さくほほ笑んだ。



* * *



朝食が終わると、神楽は資料室に来ていた。探し物は勿論、数十年前にあった例の事件。
近藤の話をもとに、さまざまな資料を、ここに来てから神楽は集めていた。
薬物、銃刀類、その他もろもろ。
しかし、これと言って関係性のある者はなく、頭を抱えるだけであった。

「どうして表沙汰にならなかったアルカ。おかしいアル。どうして極秘にしなくちゃいけなかったネ」

そして考えれば考えるほど分からなくなるのは沖田が言っていた裏≠ニ言う事。
幕府上官は、隠さなければならない何かを隠している。
一度、肥前の国へ行くべきなのかと考えた神楽だが、あまりにも遠い。
出来る限りの資料は、手本で集めたいため、それはまた後日と言う事にした。

ガチャッ…

資料室の扉が開く音がしたので、扉の方へ視線をやる。
長年の経験から、気配などで誰なのかが判別できているので、別に警戒はしなかった。

「何か用アルカ、サド」

「別に。ただ、少し気になった事があるだけでさァ」

「気になった事?」

「あぁ。昨日も近藤さんが言ってただろィ。ある病原体って」

「ここの資料にも、幕府の資料にもその病原体の名が載ってないアル。ましてや病院のカルテにも、そんな謎めいた病原体なんてない」

「もうそんなとこまで調べたのかィ」

「当たり前アル。私、任された仕事は最後までやり遂げたいネ」

資料を手に、真っ直ぐに言った神楽を、沖田は黙って見つめていた。
べつに、見惚れていたんじゃない。
ただ、もっと、言葉では言い表せないような、そんなものが勝手にひきつけていたのかもしれない。

「私にも、分らない事があるアル」

「何でィ」

「今、この状況がわかんないネ。私と、お前は天敵。けど、今は仲間。急な事で頭がついていけてないヨ。今、お前と普通の話してるのは奇跡アル」

「そーだな」

素っ気ない返事に、神楽はやはりムッとするも、どこか嬉しい自分が居た。
大人になれた。そんな優越した気分。

「あ、」

不意に、沖田が小さく声を漏らした。
神楽の方もそれに反応して視線を沖田へ向けた。

「どうしたアルカ?」

「一つ、言い忘れてたんでさァ」

そう言うと、沖田はいきなり資料の中を探り始めた。
薬に関する資料。

銃に関する資料。

病気に関する資料。
全てをそこに出し終えると、沖田は一つ一つに目を通し始めた。

数時間だろうか。
それくらい経った頃に、神楽は資料室を後にした。
なんでも、腹が減っては戦は出来ないからだそうだ。
単純な奴だと沖田は思った。

「黙ってりゃ可愛いんだけどねィ」



* * *



次第に外は暗くなりつつある。そんな景色を、近藤はただ見つめていた。
部屋の中には何冊もの書物。それは、例の事件のモノだった。
その多くには、付箋のようなものがしてある。

ぎしぎしと、誰かが部屋へ近づく音が聞こえた。

「局長」

「おお、山崎か。入れ」

「失礼します。局長、頼みの事なんですがね。やはりあれは――…」

声をひそめて話す山崎に、近藤は耳を立てて相槌を打つ。

「やはり…か」

「はい。……局長、これは俺の推測なんですがね、今回の事件はきっと肥前の国だけではないと思うんですよ。もっとこう、大きな何か。上官が隠したがるんだ、俺たちにも話せない、どうしても隠さなければならない何か…」

「あぁ。俺たちもそう思っていたんだ。あながち、外れちゃいないだろう。しかし、だ。おかしいと思わないか?どうして今頃になってまたそんな話が出てくるのか。それに、そこまで知られているんだ。全てをあばいてくれと言うかのようにな。今回の事件と例の事件がどう関係があるのかもわからんしな」

「局長……」

「山崎、引き続き調査を頼む。………幕府は、いや、この国は何かがおかしい」




そう言う近藤の目は、いつになく真剣そのものだった。







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