彼氏彼女のいない奴らに、たった一つだけ楽しみがあるとしたらどんなものだろう。まぁ、確かに言えるのはクラス全員でクリスマスパーティーをする事だけだろう。クラスの中には父母がいない生徒も多々いるからでもあるのだが、残念ながら彼ら3Zには父母はおろか、誰一人として恋人がいないのである。
担任でさえ恋人がおらずにクリスマスパーティーに参加するくらいだ。この時点で、なんて可哀そうな奴ら。そう思った人がもしもいるのなら、今の時点で謝罪する事をお勧めする。
彼らにとって、恋人がいないのはもはや同盟・・・いや、結束とでも言うべきか。それほどまでに恋人がいる奴らには厳しいのだ。傍から見ればただのひがみにすぎないのだが・・・。
「銀ちゃーん!こっちの飾りは完璧アル!」
神楽の威勢のいい声に銀時は顔を一瞬チラリと向け、『あーはいはい。オッケーでーす。』と、神楽とは正反対の、テンションで返答する。特に神楽は気にも留めずにスルリと受け流すのだが。
「みなさん、お料理が出来ましたよ?」
キッチンから出てきたのは妙である。彼女の手の中にはなんと言えばいいのやら、暗黒物質が握られている。既に異臭を放っており、鼻をつまむ事も出来ない悪臭だった。
ちなみに、言い忘れていたがこのキッチン。もとい、この部屋は沖田総悟のものであり、何故彼の部屋でパーティーが行われているかというと、彼の所属する風紀委員会の委員長である近藤が妙を誘ってクリスマスパーティーをしたいと言い出したからである。それじゃあ回答になってないって?
簡単に言うと彼の部屋しか全員入る事が出来なかったからです。
当事者である近藤は数時間前にこの世から去っていると言っても過言ではないほど、妙にボコられているので、存在が無と化している。他のクラスメートはUNOをしたりだとかトランプゲームをやったりだとかカバディをしたりだとか。
まぁ、それは沖田にとっては限りなくどうでもいい事だ。しかし、たった今キッチンを使用した妙には限りなく冷や汗をかく彼だった。それは、他人にも言えることである。
彼女、妙の料理の腕前はお世辞にも良いとは言えない。いや、お世辞を言う気も失せ、本当に地球の物産から作り出したのかと問いたくなるような何かの塊が出来上がるのだ。以前、神楽が無理やりにそれを食べさせられ一週間昼食を食べれなかったという伝説もある。
それほどまでに彼女の作りだす暗黒物質は恐ろしいのだ。ゆえに皆でそれを阻止しようとする。それはやはり沖田も例外ではない。
「あら、どうしたのかしらみなさん?どう?今回の卵焼きはとても良く出来たのよ?」
なんて。今の彼女は天使の皮を着た悪魔にすぎない。
「あ、ぁぁあ姐御!私、最近お腹の調子が悪いネ。だから今回はパスをさせてもらうアル!!そ、それに、銀ちゃんならさっきまで腹減ったって言ってたから、喜んで食べてくれるんじゃないアルか?!」
なんて上手くのがれた奴だ。沖田は神楽を見ながら思った。
「ななななな、なんで俺に振るんだよ!!!ししし志村姉!そうだ近藤、ゴリラの餌にちょうどいいんじゃねーか?!」
「あ゛ぁ゛?餌だァ?ふざけんじゃ・・・ねェェェェェエ!!!!」
「あーあ。旦那ァ。言い逃れが仇になってやんの」
今回初めて口を開いた沖田にいち早く反応したのが神楽だった。
「あれ、サドいたアルか?影が薄くて全く気付かなかったアル。新八と同類アルな!ぷぷ」
「それはザキとも同類って事かィ。ジミーズはあいつらだけで十分でさァ。まぁ、俺は元々が地味じゃねーし。どっからどう見ても王子でィ。だってかっこいいもん」
「うわァ。ついに頭が湧いてしまったアルか?逝っちゃったアルか?姐御の卵焼きでも食べて本当に逝くヨロシ」
「あれは卵焼きなんかじゃねえ。・・・ダークマターでさァ」
「・・・・・・そ、それは同意してやるネ。あんなの食べさせられたらまたお昼ご飯が食べられなくなってしまうネ。どうやっても回避しなければならなかったアル。銀ちゃんもゴリも・・・いつの間にか新八もマヨも姐御の餌食になってしまったアル」
神楽の言葉に、沖田はハッとして辺りを見回した。クリスマスパーティーどころではない。もう、血の海。いや、ダークマターの海である。あちらこちらに彼女が作り出したであろう暗黒物質が散らばっている。
「・・・片づけ。テメーも付き合えよ」
「嫌アル。姐御にお願いするヨロシ」
「・・・ザけんなよ。姐さんに頼んだらさらに状況悪化でさァ。ここは効率よくしないといけねえ。何だかんだで俺達気ィ合うみてえだし、ちょうど良いんじゃね?」
「私の気が乗らないアル。今すぐ酢昆布奢ってくれるって言うなら話は別だけどナ」
神楽の、上から目線に沖田は溜め息をはいた。それを見て、ふふんと鼻を鳴らす神楽。それじゃあナ。そう言って妙によって半殺しにされた銀時、新八の元へ歩み寄ろうとする。その時、神楽の肩を沖田が強くつかんだ。
「いっ…たァ。…何アルか」
「ん」
沖田はポケットから何か取り出す。そして、神楽の眼の前へ差し出した。と同時に神楽の額からは青筋が浮かび上がる。
「おいサド。お前は人様にテメーが食い散らかしたガムを差し出すアルか。根性腐ってるアルな。私が叩き直してやろうか?あん?」
「あ、悪ィ悪ィ。間違えたこっちでさァ」
そう言って反対側のポケットから、今度こそお目当てのものを取り出す。
「こっちが本物。で?手伝ってくれんだよな?」
「・・・か、神楽様に二言はないネ!手伝ってやんよコンチクショー!!」
にんまり。効果音がつくような笑みを浮かべて、沖田は神楽を見た。拗ねたように唇を尖らせる神楽。それがなんとも言えないくらい可愛い。
「・・・か、かわい・・」
「河合?誰アルか、それ」
「な、なんでもねえ・・・」
「ふーん。変な沖田アルな」
神楽がふわりと笑う。初めて見る神楽の笑顔に、沖田の心臓は既にピークを通り越している。
「チャイナが今・・・お、沖田って・・・」
「あっ・・・。ミスアル。ちょっと間違えただけネ!す、好きで沖田だなんて呼んでないアルゥ!!」
嘘だとすぐにわかる嘘。神楽が嘘をつくのが苦手なのは知っていたが、こうも良いところでそれを見れると言う事に得をした気分に沖田はなった。
「あ、ほら。皆回復したとこだし、パーティーするアル!!」
先ほどからみてもうすでにパーティーは開始されているように見えたが、沖田はひと笑いすると神楽の後に付いて行った。ひらひらの短いスカートが揺れる。なんとも言い難いあの太股のラインに目がいってしまう沖田だった。
「おい。総悟」
「あ。なんスか、土方さん」
「大丈夫か?さっきから意識がどっかとんでるように見えるぞ」
「あんたには関係ねえよ。・・・ちょっと、熱たまってらァ。チャイナ連れて、外で涼んできやす」
「え?」
「おい、チャイナ行くぞ。酢昆布買ってやらァ」
「マジでか?!キャホォォォーイ!」
部屋を去ってゆく沖田と神楽の2人を、土方は唖然と見つめていた。2人に気がついた銀八は、膝をついて土方に寄っていく。
「・・・え。なになに今の・・・。あいつらって、付き合ってんの?」
「いや、・・・あれはたった今恋に落ちたような表情だったな。・・・・・・喰われっぞ。チャイナ娘」
「NOォォォォォォオ!!!!」
崩されたジンクス
(今銀ちゃんの叫び声しなかったアルか?)
(気のせいだろ)
(ここ公園アル)
(公衆トイレに用があるんでィ)
END
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雪那ちゃーん!!!
クリスマス過ぎてもう年明けたのに遅れてしまって申しわけありません!!
すこしでも楽しんでいただけたら光栄です・・・;;