ふと目が覚めた。

どうやら、知らない間に眠っていたらしい。体も少しだけ楽になっていた。


ぐきゅるる〜っ


(…そういえば、朝から何も食べてなかったアル)


重い体を引きずりながら、神楽はキッチンへ向かった。少し楽になったとは言え、まだ足元はふらついてしまう。

そのせいか、リビングに着いた所でバランスを崩してしまい、倒れてしまった。


「……痛っ…まだ寝てなきゃ駄目アルナ」


そう言って立ち上がると、ふとテーブルの上の花瓶に目がいった。

そこにある花は、すっかり元気を失い、その姿は神楽の心を締め付けた。


「…これはマミーの」


母と暮らしていたあの頃を思い出してしまう。




(マミーはお花が好きアルカ?)

(ええ。自分の命が尽きるまで、一生懸命に咲く花は、凛として…華やかで…お母さんは大好きよ)

(私の1番好きな、ごはんの時間も忘れるくらい?)

(あら。もうそんな時間?急いで支度をしなくちゃ!今日はハンバーグよ)

(本当アルカ?!キャッホーイ♪)

(うふふ。神楽ちゃんも手伝ってくれる?)

(もちろんネ!マミー!)

(ありがとう)



今まで、ずっと母子家庭だった。母は朝早くから夜遅くまで仕事でいない日々。だから毎日、一人で過ごす事が多かった。たまにある休みの日に、母とゆっくり過ごすのが本当に大好きだった。やっと大きな家族を持ててすごく嬉しかった。

しかし新しい父とはすぐに離れ離れに。母も今は遠い土地にいる。

私はまた一人になってしまった。






“一人”






急に怖くなった。


あと数時間すれば、総悟が帰って来るのは分かっているのに…。

それなのに…どうしても溢れ出る涙を抑えることが出来なかった。




「…っふ……うっ……ぉねが…ぃ……一人にしないで…」


「一人じゃねェだろィ」


「………え…?」




そこには、紛れも無く総悟が立っていた。




「…ったく。部屋にいねェから心配したのに、見つけたと思ったら…何泣いてるんでィ」

「…ぁ…ひっく…何で?…だって…まだ時間…」

「あぁ。予定より早く終わった。ほら…ブドウゼリー」


差し出された袋を見ると、確かにブドウゼリーが入っている。


「…それより。何で泣いてるんでさァ。また嫌な夢でも見ちまったのかィ?」


神楽は首を横に振る。


「じゃあ…どうしたんでィ?」

「怖くなっちゃったのョ…」

「どうして?」

「マミーは朝から夜まで、お仕事でいなくて…一人で過ごす事がほとんどだったアル。…一人は物凄く寂しいし辛いネ。だから…私、また一人になってしまったって考えたら…涙が止まらなくて………ふぇっ……」



すると総悟は、泣きじゃくる神楽の頭を優しく撫でた。



「………神楽。言ったろィ?俺は居なくならないって…ずっと神楽の側に居るって。神楽は一人なんかじゃねェでさァ。だから泣くのは止めてくれィ」

「…うっ……ひっく…」

「さ、早いとこ飯食って、ゆっくり寝てなせィ。また熱上がるぞ」

「…うん…ありがとネ。総悟!」

「どういたしまして」





貴方のその優しさは、いつも私を癒してくれるの。








花に水を、私に貴方を









・・・
あいさ

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