宇宙の唄
学生幼馴染
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「神楽ちゃんの誕生日は祝日だから、前の日になっちゃうけど今日プレゼントあげるね。私、明日用事があって神楽ちゃんのお家にいけないの…ごめんね」

「別に大丈夫アルよ!私も用事というか厄介者のような奴が来るから」

「そうなの?じゃあその人と一緒に過ごすんだ!良かったね!」

別にその厄介者が来るからと言って楽しいわけではない…と思う。それはやっぱり、厄介者だから。

「それじゃあ神楽ちゃん、また金曜日に会おうね!」

にこにこと笑いながら教室を去っていく友達。彼女はバイトを掛け持ちしてるから、忙しいのかもしれない。たぶんだけど。

私も早く帰りたい!帰ってお風呂に入って幸せなひと時を過ごすのだ。そして、次の朝は11時過ぎに起きて暴食をする。これが私の誕生日の過ごし方だ。

しかし今年の誕生日は奴がくる。…幼馴染の沖田総悟だ。

奴は私の嫌がることを生まれたときからやってのけた。

これは今は亡き母から聞いた話だが、私が生まれたその日、母の友人つまり総悟の母は総悟を連れて産婦人科にやってきた。母と、私を一目見るためにだ。

『可愛い!女の子ね!』

そう言う総悟の母は、私に見とれて総悟から目を離していた。総悟だって、まだ生まれて4カ月ほどしかたっていなかったが、手足を動かすなどはできる。

奴はその動く手足を利用して私の、まだ開いて間もない可愛らしく愛くるしいブルーの瞳に指を突っ込んだのだ!突っ込んだと言っても目に指が触れた程度だったのだが、私はそのせいでそれはもう盛大に泣きじゃくったのだ。

時は過ぎ幼稚園。

あのころの総悟は今程ではないが、その頃からドSっぷりを発揮していた。

「かーぐら!」

「何アルか、総悟」

私も幼かった。あのころは総悟の事を私の王子様だと思っていたし、総悟も私にキスを何回もしてきていた。若気の至りというやつだ。

「誕生日おめでとう!これ、俺から神楽へのプレゼントでさァ」

「わー、ありがとうアル!総悟!」

うきうきしながら、もらった牛乳パックの中身を開く。まさかあんなものが入っていようとは、夢にも思っていなかったし、ちょうどあの頃は牛乳パックに砂をいれ、お花を育てるのが幼稚園のなかで流行っていた。

私にくれたソレも、結構な重みがあり、その類であろうと思っていたのだが、中を見て風化。まるで全身の穴という穴から何かがこぼれ出てくるよな喪失感と恐怖に包まれた。

「……ヒェェェェエ!ダンゴムシアル!ダンゴムシの死がいアル!!」

中にはいつから貯めていたのであろう、数百匹は超えるであろう団子虫…の死がい。あの頃の私は団子虫が好きだった。触ると丸みを帯びるあの体。ツルツルとなめらかな体は、なぜだかとても可愛らしかったのだ。

しかし、あんな大量の団子虫。しかも死がいだ。好きになれようはずもない。

「神楽のために半年前からコツコツ貯めてきたんでさぁ!うれしい?」

「わけねーアル!死んでる!死んでるヨ、これ!!」

「半年前のだからねィ。白骨化してまさァ」

「白骨化してんのにこの重みは何アルか!」

「おれの、神楽に対する愛の重みでィ」

「そんな愛いらないアル!」

まるでギャグのような。いや、実際ギャグなのかもしれない。しかし、こんな仕打ち…。しかも誕生日にされたのは生まれて初めてだった。

小学生の頃は消しカスで作ったミニチュアバースデイケーキ。嫌がらせだ。食べれないバースデイケーキなんて、もはやケーキじゃない。

中学生の頃は首輪だった。この頃から総悟の思考は至らぬ方向へと転換したのだ。中学生の頃が、本物のSの覚醒に違いない。でも、その頃から総悟はモテた。顔だけはいいのだ、顔だけは。

高校からは総悟は男子高、私は女子高へと進学。私がそうしたのだ。









小学生のころに母親が死に、中学の途中までは父がいたが父は中国に出張。兄は私が高校に上がると同時に行方不明。それからはソコソコ高いマンションで一人暮らし。まあ、これは問題ではない。問題はここからだ。

「なぜ私の部屋の扉が開いてるアルか」

嫌な予感は的中するものだ。最近もしかしたら私には第6感が目覚めたのかもしれないと思うほど、総悟のことに関しては的中する。

「……ただいま」

思いのほか小さな声になってしまった。ダイニングからは良い匂いがする。料理をしているのだろうか。

くつを揃えてダイニングに向かう。あぁ、やっぱり悪い予想は的中するのだ。

「神楽!お帰り!」

はぁ、と一つため息。やっぱり総悟がいた。以前見たときよりも数段カッコ良くなっている。

「私まだ誕生日迎えてないアル」

「明日休みだから、お祝いがてら泊りに来たんでィ。神楽に一番におめでとうって言いたかったから」

普段女子の前じゃ見せない表情を、私は知っている。こいつが案外不器用なところも、笑うとえくぼができることも。

「お前身長縮んだ?俺が高くなったのか?」

「お前が高くなったんだヨ!コンチクショウ!」

「ガキだな、神楽は」

精神的には総悟の方が絶対に年下だ。同い年なのに、ずるい。

「ほら、もう飯出来てっから早く食おうぜ。どうせめちゃくちゃ食うんだろィ?いっぱい作っといた」

「ひゃほーい!美味そうアルな!」

総悟は不器用だけど、料理は上手い。不器用だから、切るのはへたくそだけど、味付けは本当に美味しいのだ。

私が料理を頬張るのを見て微笑む総悟。こんな時の表情は、とっても柔らかい。こんな総悟は、とても好き。

「総悟は食べないアルか?」

「俺は、もうちょっと見てる。神楽、美味そうに食べるから可愛いんでィ」

ブフゥッ。

「……恥ずかしくないアルか」

「ううん。前から言ってるじゃん。俺、神楽が好きだって」

そうだった。今までのソレら(団子虫事件・首輪事件)は、すべて私が好きすぎるために行ったものだったのだ。

料理を食べ終わって、後始末もしてから、私たちはソファーに座っていた。

「…幼馴染って、もう全部知ってるからそんな感情どっかにいっちゃうかと思ってたアル」

「俺らは特別なんでィ」

ニヤリと笑う総悟。

「ちなみに俺、来週からここに越すことになったんで、よろしくな」

「へ?」

時計の針はいつの間にか12時を指そうとしていた。

「害虫駆除が必要なもんで」

「え…?」

「あ、11月3日だ。…お誕生日おめでとう。一番に言いたかったんでィ」

幼馴染だから、恋愛感情なんて生まれないってずっと思ってきた。思ってきたから、自然と私は自身の思いに蓋をして、隠してきた。

「これからもずっと、神楽といたいんでィ」

私の頬が、手が、指先が。全部が総悟によって熱を持ち始める。

「好きだよ、ずっと」

心がホカホカと、総悟で満たされていく。それって、なんだかまるで。

「ずっと、一緒に居てほしいアル」

宇宙みたいだ。





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可愛い二人を書いてみたかったんです。

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