淡水に浮く
現代幼馴染高校生
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「総悟、今日の夜ごはんどうするアルか?」

ひょこりと教室のドアから顔を見せた神楽に、俺は焦ってドアの方へ向かった。教室内からは冷やかしの声が聞こえて、俺は耳まで真っ赤になりながら神楽の背中を押し、教室の外へと押しやった。

「ちょ、総悟!離すヨロシ」

「てめーは、毎回毎回人の教室に来るなって言ってるだろィ」

「そうだけど…。今朝も学校行くのに、総悟が先に出て行っちゃったから話せなったアルよ。ていうか、最近私のこと避けてるアルか?」

「さ、避けてるわけじゃねー」

「だったら別に良いアル。で、今日の夜ごはんは何が良いアルか?」

少しイラついたオーラを出す神楽に、俺は『鍋』と一言だけ言うと『分かったアル』そう言って自身の教室へと帰って行った。

ため息をしたい衝動を押さえて、俺も教室に帰っていく。最近、神楽をイライラさせてばかりだ。

「お、旦那が帰ってきた」

「旦那じゃねーよ」

こいつらは、俺が神楽のことを好きだという事を知っている。こうして冷やかされているのは、一種の応援…なんだと思う。

「お前は押しが足りないんだよな。告られた女には積極的にフりに行くくせによ」

「それは……。はぁ」

「私も思う。沖田君モテるのにね〜」

「まぁ、それで神楽ちゃんが虐められないから良いよね!神楽ちゃん、女の子にも人気高いし!私絶対沖田君ファンに虐められると思ってたもん」

近くに居た女たちも、俺たちの話に交じってくる。

たしかに、神楽は男からの人気はもちろん、女からの人気も負けず劣らずだ。男勝りな性格と、可愛らしい顔。そして女の子には優しい、これが特に神楽の人気を上げている項目だ。

「あーあ、総悟はいいよなー。俺にも幼馴染がいれば楽しいスクールライフが送れるかもしれないのに」

「幼馴染だから、発展しねーんだよ」

俺と神楽はまるで兄妹のように毎日一緒に居て、幼小中高と一緒だ。小さい頃は確かに、結婚しようねとか、大好きだとか、そう言う今となれば恥かしい言葉でも無垢な俺たちはスラスラと言えたものだ。

ただ、中学へ進学したころ、やはりそれは邪心というのか何というのか…。一度そういう目で見てしまえば、もうそういう目でしか見られないというか。

神楽は気づいていないかもしれないが、神楽が毎日俺の家で飯を作っている姿を見れば、後ろから変な、厭らしい目で見つめていたりとかするわけだ。

好きだから、そう言う目でみるのは仕方がないち言えばそれまでだが。

「あ、ねぇアレ神楽ちゃんじゃない?」

「本当だ、どこ行くんだろ」

反対側の西棟。あのまま行けばきっと屋上に違いない。でもどうして屋上なんかに?

「あー、ありゃあ告白だな」

「え、ちょまじ?この間も告られてたよね、神楽ちゃん」

「一昨日でしょ?私見たもん」

「今日は誰なんだろ?」

「おい、総悟、早く行かないとやべーんじゃ……。って、もう居ねえし」

「成功すると良いね」

「俺たちが協力してやったんだぞ!絶対成功する!」





*****




昔は神楽の後ろに立って、神楽が俺を守ってくれた。身長だって神楽の方が高かったし、食べる量だって神楽の方が多かった。今も食べる量は俺の方が少ないが、身長だって、手の大きさだって神楽より俺の方がでかい。

神楽のことを良く知っているのは俺で、俺のことを良く知っているのは神楽だけなんだ。

神楽じゃないと、俺は駄目だ。

屋上の思い扉を開く。目の前に居たのは神楽一人だけだった。

「神楽?」

「あ、総悟。用事って何アルか?ていうか、用事あるなら言伝しろヨ!わざわざ友達が言いに来てくれたアルよ!」

「え、どういうこと…?お前告白されてたんじゃ…」

「告白?」

「…あ、…そうか。なるほど…」

「一人で納得して、ワケ分かんないアル。何にもないなら、もう帰るネ」

「用事なら、ある。めちゃくちゃ大事な用事」

「…さっさと言うヨロシ」

おおきく一つ深呼吸。告白って、こんなに緊張するんだな。今まで平気でフってきたけど、今日からちょっと改心。

上手くいかなくても、伝えたい気持ちと、伝わってほしい気持ちは、俺も、俺に告白してきた女も同じなんだ。

雌豚とか、馬鹿女とか言ってきたけど、『告白』をしただけで、それは俺よりも上にいるってこと。俺は今までそんな勇気はなかったけど、でも今なら言える。


「―――俺は、神楽のことが…」


俺は神楽のことが好き。それだけでも伝わってくれれば、きっと、俺たちはそれでいいんだ。





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なんだかうちの沖田君はヘタレだな…。
でも最後はしっかりやってくれると信じてるよ!
とんかく沖→(←)神主義


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