深い森に沈む
兄妹・不真面目神楽※卑猥語
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お兄ちゃんはウソツキだった。
私がお兄ちゃんを好きと言ったら、必ずお兄ちゃんも好きだと言ってくれる。それが嬉しくて高校に入ってからもそれを続けていた。私はお兄ちゃんが大好きだったから。
「お兄ちゃん、好き」
「うん、俺も」
簡単な返事になってきたけれど、お兄ちゃんはずっと私のこと好きでいてくれてるとおもってた。ブラザーコンプレックスとかそういうものだと思われていたのだろう。
私は、もっと深い意味でお兄ちゃんが好きだったんだけどな。
本当に、お兄ちゃんが私だけを好きでいてくれないと確信を持てたのは、お兄ちゃんが知らない女の子を家へ連れてきた時だ。
お兄ちゃんもニコニコして、なんだか幸せそうだった。二人がお兄ちゃんの部屋に入って行ったあとすぐに、お兄ちゃんは下りてきて、お茶をコップにそそいでいた。
「可愛いアルな」
「うん。誰かさんとは大違いだな。怪力じゃねーし、可愛いし。まぁでもあいつは―…」
「そうだネ。あ…そうだ。私、ちょっと遊びに行ってくるアル」
「は?もう夕方だぞ。アイツも、今日は飯食っていくし、一緒に…」
「バカじゃないアルか、二人で食べるヨロシ。私、友達と遊ぶ約束してるから行くアル。じゃーね、兄貴」
「兄貴って、おま…」
私はお兄ちゃんが大好きだ。兄妹としてなんて、見られないくらいお兄ちゃんが好きなんだよ。
ドアをゆっくりしめると、そのまま明るい街の方へと歩いて行った。
***
「あれ、総悟君。妹ちゃんは?」
「出かけた」
「夕方から?珍しいの?」
「最近、ここんとこずっと夜遊してる。たく、心配すんだろうが」
「そっか、私帰るね。総悟君に悪いし…」
「ごめんな、彼氏心配してるよな」
「ううん。大丈夫だよ。総悟君のところにいるの知ってるし。私はあいつ一筋っていうかもうあいつのことしか考えてないし!」
「のろけかよ。…じゃあ悪いな、あいつによろしく」
彼女は俺の親友の彼女だ。なにかと相談にのってくれていいヤツなんだが、たまに首を突っ込みがちな部分もある。けれど、親友ともども俺を助けてくれるいいヤツらだった。
多いときには数日間この家で一人ですごす。両親は神楽が生まれてから一年したころに事故で亡くなった。神楽は幸い助かり、一時は親戚の家に住んでいたのだが、俺が働ける年齢に達したと同時に、神楽を連れてこの家に戻ってきた。
神楽がそれを望んだのだ。
「…どこ行きやがったんだよ、バ神楽」
知らないうちに、神楽の服がどんどん増えている。遊ぶ金もどうやって作っているのだろうか。個人の、しかも妹のプライベートに干渉するつもりはないが、どうしても気になってしまう。
まさか、援助交際をしているのではと疑ったことがある。神楽に問いただすと、確信的な答えが帰ってこなかったために、怒鳴ってしまった。そうしたら、みるみるうちに瞳いっぱいに涙をためて外へ飛び出していった。
言いすぎたかと、神楽が出て行ったあとの扉を、あの時はずっと見つめることしかできなかったのだ。
でも今は。
「探しにいかなくちゃな…」
***
「ほんと、毎日毎日辛いアル!今日は誰に泊めてもらおうかなー…」
街灯だけしか、明りの頼りがない公園のベンチに座って携帯をいじる。最近の携帯って便利だな。タッチパネルっていうんだっけ。
パタパタと足をゆすっていると、肩を誰かに掴まれた。またか、そう思いながら振り返ると案の定酒に酔った臭いおやじが鼻息を荒くしながら顔を近づけてきた。
「ねえ、今からおじさんと1万で『生』どう?」
「ヤだ」
「1万5千円は?」
さらに顔を近づけてくる。いつもは力づくで払いのけるのだが、なぜか『もう、べつにいいかもしれない』という思考が脳裏をよぎった。だってもう望みがないというか、元々望みがないっていうか…。
「2万は?」
「…っ!!」
おやじの臭い体に触れようとしたその時だった。ものすごい力で私の体は後ろへと倒れていく。地面に衝突するかもしれないという考えが起こる前に、背中には硬い、けれど温かい感触がした。
「こいつ、俺の妹なんで」
酷く怒ったような声だった。低く、今まで聞いたことがない様な声。とたんに怖くなって、今さっきまで、私が考えていたことに身の毛がよだった。
強引に手を引かれ帰路につく。玄関のドアを閉めた瞬間、強くドアに両手を縫いつけられた。
「お前は、俺が行かなきゃ何するつもりだった」
掴まれている両手首がキシキシと痛む。そんなのお構いなしにお兄ちゃんは続けた。
「あの臭いおやじに、ホテル連れ込まれてヤらせてたのかよ。今まで家に居ない間も、そうやって金貯めてたのか。服が増えていったのも、全部全部ヤらせて貯めた金か」
「ち、ちが…お兄ちゃ…」
「黙れ」
首筋に埋められたお兄ちゃんの顔。それは本当に、私が見たことのないお兄ちゃんの男の顔だった。怖いと思った。心臓に、ギュッと握りつぶされたような痛みが生じた。
「や、お兄ちゃん止めてヨ!!」
私の力は強い。お兄ちゃんに負けないくらい強い。でも、こういうときの私はとても弱いのだ。本当に嫌なら、きっと、もう振りほどいてる。
「俺じゃない野郎にもさせてたんだろ。だったらいいじゃねーか。名前も知らないような赤の他人、しかもおやじにヤらせてんだ。だったら、身近な俺が妹のてめーをヤっても文句ねーだろィ」
お兄ちゃんは本気で怒ってる。
「…ひぅっ、お兄ちゃ…」
無意識のうちに流れていた涙。それをみたお兄ちゃんは、一瞬ハッとしたような表情を見せると、私から勢いよく離れた。
「かぐ、…すまねえ。頭、冷やして来る。ごめん」
そう言って離れていく背中。「あ、」と小さく声を漏らしてもお兄ちゃんは気づいてくれなかった。私って、すごく、汚い。
***
神楽を前にすると、まったく余裕がなくなる。さっきもそうだ。おやじについて行こうとする神楽に対して無性に腹が立った。そんなのいつもの馬鹿力で振り払ってしまえばいいのに、神楽はそうしなかったのだ。
「……妹に、なにしようとしてたんでィ、俺ァ」
神楽は妹だ。それ以上でも、それ以下でもない。俺のたった一人の家族なんだ。
瞬間、玄関先での行為が脳裏を掠めた。もう、駄目かもしれない。ずっと見て見ぬふりをしてきたが、そろそろ本当に歯止めが利かなくなりそうだ。俺は、神楽に対して、妹以上の感情を抱いているのかもしれない。
そんな気持ちが無いなら、絶対にあんなことしないはずだ。
「血がつながってるってだけなのにな」
握りしめたこぶしが、じんわりと汗をかいていた。血が繋がってるって、こんなにも深くて憎い。刹那、がしゃんとドアが開く音。誰か、なんて一人しかいない。
「お兄ちゃん」
神楽は馬鹿だ。あんなことして、俺に対して怯えていたくせにどうしてここにやってくるんだろう。
「ごめんなさい」
謝って済むことじゃない。俺は本当に心配したんだ。
「お兄ちゃんが、心配してくれてたのは前から知ってたアル」
だったらなぜ、わざと心配させるようなことをするんだ。
「だから、もっと心配させちゃえばいいって…。そうしたら、お兄ちゃんが私のことを一番に考えてくれるって思ったアル。…私、お兄ちゃんが大好き。でもお兄ちゃんがそう思っててくれないと、私は駄目だから。だからもう誰でも良いって、自棄(ヤケ)になっちゃって」
「もう、いいよ」
「よくないアル!まだ、言ってない!」
神楽の気配がする。キュッと服を掴まれた。ホカリと温もる、神楽と俺の体温。
「なに、を」
『握りしめ変えられた』それに、膨れあがる期待と焦り。言わせていいのか、神楽に。妹に。
「私…お兄ちゃんのことが…」
くるりと振り返って神楽を抱きしめる。もう、どうでもいいや。どうでもいいんだ。
「好きでさァ」
誰にも知られなければ、俺と、神楽だけの秘密だから。
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暗い!なんかもう暗い!
あえて設定的にいうなら暗甘…。
いろいろ突っ込みどころは満載なんですが、夜中に描いたのでもう寝ぼけてるんだと思います。
朝になると、きっと今書いてることも忘れてますよ…。
これは史上最高の駄文ではないかと思います。
ちょこちょこ書きなおししていきます。