終幕宣言
3z
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「こんの、バカサドー!!」

派手に音をたてて、チャイナが俺の頬をブッた。この野郎、平手なら許してやったのにまさか本気パンチを繰り出してくるとは。

「総悟、血出てるけど大丈夫か?」

「ほっとけ、近藤さん。総悟が悪いんだ」

チッと、舌打ち。土方コノヤロー。最近ちょっと姉さんと雰囲気がいいからって調子に乗りやがって。姉さんが嬉しそうにしてるから何もしないだけで毎晩呪ってんだぞ。

「思いっきりしてるじゃねーか!何だよ、呪いって!!」

「あり、知りやせんでした?最近発売されたばっかりの新商品なんですよ。良い鴨がいたんで、試させていただきやした」

「鴨って言った?おい表出ろ総悟」

「やなこった。俺ァ今からチャイナ追わなくちゃいけねえんでさァ」

隅っこで暴れている土方は無視。心配そうに視線を送る近藤さんに、大丈夫と一言言うと俺はチャイナ娘が逃げて行ったであろう屋上へと走った。





俺だけが悪いわけではないはずなのに、姐さん達がチャイナに付くと強制的に俺が悪者だ。ただチャイナにちゅーしただけなのに。それで嫌なら拒めばいいだけだ。拒まなかったチャイナも悪い。

それを言ったら屁理屈だと言われた。いきなりそんなことされて、女は頭の中が真っ白になるらしい。近藤さんが言っていた。近藤さんはそんな経験ないはずなのに、良く分かるなと思う。

それを言ったら近藤さんは泣いていたが。

屋上へ行くとチャイナはいなかった。おかしい。いつもなら、ここに居るのに。

どこに居るのかと思い、一応屋上から全体を見た。グラウンドには居ない。だったらどこに居る?

金網フェンスにつかまり、学ランに顔を埋めた。最近は急に寒くなったから人肌が恋しかったのだ。チャイナ限定で。だからチャイナにちゅーをした。俺がチャイナにしたかったのだ。チャイナが好きだから。

「真っ赤になってたくせに」

ズピッと、鼻を啜る。俺の恋は近藤さん並みに脈がないのかもしれない。もし本当にそうだったのなら、俺死ぬかも。

今まで女に苦労はしなかったのに、どうしてよりにも寄ってあのチャイナに。最初のころは、自身の心を疑ってしまった。

しかし、人間ハマればとことんハマってしまうのだ。たとえそれがツルペタチャイナ娘でも!!

「あ…、いた」

チャイナ発見。けれど、チャイナがいたのは国語資料室、銀八のところだ。銀八にはニコニコしながら話してやがる。銀八は、ある時は土方よりも嫌いな奴になる。チャイナと話してるとき、チャイナが銀八を見てるとき、チャイナが銀八の事を話してるとき。

なんだ、これ。全部チャイナばっかりじゃねえか。

俺はこんなにもチャイナが好きなのに、チャイナはそれをまったく分かっていない。いったいどんな神経をしてるんだ。だいたい、ちゅーした時点で気付きやがれ!

「な、んで」

そんな事を考えていると、チャイナと銀八の体が重なった。次に離れたときは、チャイナの頬は真っ赤に染まっていて。

無性に腹が立った。

俺に見せたのとはまた違うような、頬の染め方。ムカつく。

国語資料室に向かおうと、体を反転させようとした。瞬間、銀八と目が合う。ニヤリと笑いやがった銀八はやはり呪い殺しておくべきだったのだ!!土方よりも早くに!!

屋上から全力疾走で国語資料室へ向かった。角を曲がろうとして誰かにぶつかったが、無視。今はそんな奴に構ってやれるほど暇じゃねえし余裕がない。

国語資料室まで数メートルというところで、ばったりチャイナに出くわした。銀八の姿はない。逃げやがった。

「サド……」

目をそらすチャイナ。チャイナの声を聞いた瞬間、銀八の事なんて頭の中から綺麗さっぱり消えていた。ただ、嫉妬だけだ。

「その、私お前に話が……」

最後まで言い切る前にチャイナの手をとって無言で歩く。さっきはこの手で俺を殴って、いつもこんな小せぇ手で俺とケンカしてんだよな。

「お、きた!!!」

くそ、不意打ちだ。今まで名前で呼んだことなかったっくせに。

「な、なんだよ」

「私、お前に話があるって言ってるアル!」

「あ、あぁ。俺もお前に話があるんでィ」

二人の視線は交わることはない。ただ、繋がれた二人の左と右の手を見つめている。最初に話し始めたのはチャイナだった。

「私、さっき銀ちゃんと話してたアル。それで、ネ。お前、私にちゅーしたダロ…。その、なんでかなって…銀ちゃんに、相談…して」

語尾にゆくにつれ、段々と小さくなる声。

「お前は、どうして私にちゅーしたアルか」

今度はまっすぐな目で俺を見てきた。さっきまではそらしてばっかりだったのに、今はそらすことができない。

「お、れは…」

チャイナが好きだ。

「す、好きでもない奴とは、じょ、冗談でもキスはしねえ!!」

カッコ悪い!緊張しすぎて、声が震える。

自然と繋がれた掌に力が入る。汗まで掻いて、手がジトジトする。心臓の音が、血液の流れの速さが、掌を伝ってチャイナに届いてしまうかもしれない。伝わるのは恥ずかしい。でも、伝わってほしい。

俺は、チャイナがこんなにも好きなんだよ。

チャイナの空いている方の手が伸びてきた。俺の右の頬を温かい、白い手が撫でる。

「……殴って、悪かったアル。沖田が、私の事からかってるのかと思って…ついムキになってしまったヨ。…でも、良かったアル。お前の気持ち聞けて。こんなにお前の心臓バクバクいってるのに、嘘なんてありえないもんネ」

「バカだなァ、テメーの心臓の音の間違いだろィ」

「ふん、そういうことにしといてやるヨ」


ムカついたから、ちゅーしてやった。




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毎度毎度、微妙な終わり方ですみません!

甘いかどうかもわかりません。



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