こんにちは、お嬢さん
狼沖田、魔女神楽
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「最近は、森の向こう側で狼がよく出るらしいの。神楽ちゃんも気をつけてね」

「大丈夫アルよ。私けっこう強い魔法使いだからネ、そんな狼けちょんけちょんアル!」

「心強いわ!それじゃあ神楽ちゃん、狼退治よろしくね」




なんて会話がされたのは数日前。私は今、その『森の向こう側』に狼退治に来ている。

「最悪アル。服は泥だらけ、髪もぼさぼさ。難しい魔法は使えるのに、『治す』魔法は使えないアル」

やっぱりしっかりと授業を聞いていればよかった。そうしたらこんなに嫌な思いをすることもなかったのに。

「どこかに体中を洗浄できる場所はないアルか!!」

大声をだすが、聞こえるのは森の中に響く私の声だけ。むなしい気持ちになりながらも、まだまだ続く森の中を必死に歩いていた。箒を使えば一発だなんて、んなもん知るかヨ!!

少し入り組んだ道を歩いて行くと、小さな小屋があった。人が住むには、ここはとても寂しい場所だ。

気になって窓から中をのぞいてみると、綺麗な髪をした若いお兄さんが椅子に座ってなにやら本を読んでいた。

「『M痴女の●●』……」

鳥肌が立ちました。

綺麗な髪で、綺麗な横顔で、そんでもって汚い本。ギャップがありすぎて思わず声をあげてしまった。すると、中のお兄さんに聞こえたのか、視線を私の方へずらしてきた。

ニコリとほほ笑む……訂正。ニヤリとほくそ笑む彼はもうカッコ良くも何にもない。そもそもなぜ、こんなに若い男がこんな森の中にいるのか。

ギーッと木で作られたドアが開く。ドキリとしてドアを見つめていた。

「お嬢さん、どうしたんで?こんな山奥に」

「あ、ちょっと用事があって…お兄さんはここに住んでるアルか?」

「そうだぜィ。ちょっと入っていくかィ?美味いケーキがあるんでさァ」

「マジでか!食べたいアル!!」

もう、すっかりさっぱり狼のことなんて頭の中にはなかった。というより、ケーキのことしか頭になかったのだ。あの時の私を粛清してあげたいくらいだ。

中に入るとそこはなんだか甘いにおいがした。ケーキがあるから、とかそういうのではなく、本当に甘い匂いがしたのだ。どこかで特徴を聞いたことがある匂いだった。どこで聞いたんだっけ?

「モンブランと、ショートケーキ、どっちがいい?」

「ショートケーキ!」

「はい」

そう言ってお兄さんはショートケーキを私に差し出す。その指までもが綺麗で、どこまでも何もかもが美しいんだと思った。別に変な感情はない。

「ん〜〜〜!美味しいアル!!これ、どこに売ってあるアルか?」

「俺が作ったんでィ」

「ほえー。お兄さん料理上手いネ!私の将来のお婿さんは、料理が上手い人って決めてるアル!」

「ふーん、じゃあ神楽のお婿さんは俺で決まり?」

もぐもぐと残りのショートケーキを口に含んでいると、何故か妙な違和感を感じた。なぜ違和感を感じたんだろう。

「ほら、口元にクリームついてらァ、とってやるから神楽、こっちむきな」

「……むぅ、どうしてお兄さん私の名前知ってるアルか?」

「なんでィ、そんなこと気にしたのか?まぁ、そりゃ最近俺を退治しようとする魔法使いが俺を探してるって聞いたもんで…風のうわさで」

目が点とは、まさに今この状況。なんということだ!!このお兄さんが狼だったのだ!!

ニヤリとする口元がもうやばい。何かを企んでいる時の悪いやつの目だ。

「大丈夫でさァ、俺村のやつらが思ってるほど悪い奴じゃねーんで」

黒い笑みが消えてキラキラとお兄さんの周りに星が浮かび始めた。これは、俗にいう王子様というやつなのか?

「でもそれが私の名前を知ってる意味にはならないヨ?」

「うーん、詳しく言えば俺は村へ良く化けて出てるからねィ。最近あんたを偶然見かけて、あんたのことを知ってる村のやつらから聞いたんでさァ。可愛いね、神楽って」

「…ストーカーアル…」

「そんなのと一緒にすんな、俺はストーカーじゃねえしむしろお前から来たんじゃねーか」

「そうだったアル…。でも退治しなくちゃいけないネ。どうすればいいアルか?とりあえずホイミー使っとくアルか?」

「何もしてないのに体力回復してどうするんでィ。魔法使いならもっと魔法使いらしい魔法にしやがれ」

「難しい魔法は使えるアル。でもお兄さんは悪い人…?狼には見えないヨ」

「………、それ、禁止」

そう言うや否や、お兄さんは私を抱きしめた。そして耳をハムっと噛んできたのだ。

「これでお前も今日から俺のお嫁さんな。よかった、一応香焚いてて」

「んんぅ!!香?何アルかそれ!ていうかお嫁さんってどういうことアル!」

「狼界では、耳に婚の証をつけるんでィ。要はマーキング的な。一度つけられた婚証は相手が死ぬまで消えねえんでさァ。俺のこと、大事にしてくれよな」

「キモいアル!!最悪アル!この年で結婚なんて絶対損してるネ!」

「俺は神楽一筋なんでィ。よろしくな、神楽」

さっきまでは見えなかったしっぽがひょこひょこと左右に動いている。今すぐに魔法で千切ってやろうか、などと思っていたが授業を聞いていなかったため呪文など覚えているはずもなく……。

まぁその後は二人とも幸せに暮らすのだろうけど、毎日ケンカが絶えず、そして喘ぎ声も絶えないのでした。

めでたしめでたし。



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一年待たせてしまいました。
もう本当に申し訳ないです。完成していたのにUPもせず…。
本当に申し訳ありませんでした!!
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