PCH1.想像婚約契約書
「沖田の馬鹿。なんで迎えに来てくれないアルカ」
祭りの最中に、一緒に来ていた沖田とはぐれてしまった。べつに、寂しいとか怖いとか、そんなの全然思ってないアル。ただ、迷子になった沖田を心配してるだけヨ!
何て強がりもそう長くは続くはずもなく。段々と涙腺が脆くなっていき、すんっと鼻を鳴らすと同時にポタりと小さな涙が浴衣の袖に落ちてしまった。
「あいつ、あり得ないアル!女の子を、しかもこんな美少女を置いてどっかに行っちゃうなんて!それでも彼氏かよ、コノヤロー!!」
道行く人々が私を見ながら苦笑いする。ほら、お前が私を置いて行くから皆の笑い者アル。どうしてくれるネ。
「お腹すいた…。あ、そうだ。チョコバナナ食べよーっと…」
チョコバナナを取り出して、食べようと試みた。すると、私の正面には小さく蹲って泣いている小さな男の子。迷子みたいアル。
心配になって、その子の側まで駆け寄ってみた。
「僕、迷子アルか?」
「…!ち、違う!迷子なんかじゃねーよ!!」
ズピーッと音を立てて鼻水を啜る音が聞こえる。完全に泣いてる。きっとママとはぐれたんだ。
「うーん。これ、食べるアルカ?私のだけど、お前にあげるアル」
顔をヒョコリとあげた男の子は、私を見るなり笑顔になって『べ、別にお腹がすいてるわけじゃないからな!』なんて言いながらチョコバナナを食べた。あれ。これが世間で言うツンデレアルか?
「僕、名前はなんて言うアル?私は神楽って言うネ」
「かぐら?……僕は、爽痲(そうま)。…きめた!僕、将来神楽と結婚する!」
「…ん?い、いきなりアルな」
笑顔で答えてくれたのは嬉しいけど、自分より小さな子供にプロポーズされてしまった。いや、でも少し生意気だけど可愛いし…。結婚はできないけど、お友達っていうか弟のような感覚で……、って。
「神楽!!」
あ、総悟。
「やっと見つけた…って。そのガキ、誰?」
「爽痲アル。迷子さんみたいで、今ママさん探してる所ネ」
「迷子じゃねーって言ってるだろ!それに、僕にはママはいない!」
ギュッと抱きついてきた爽痲を、私は抱っこをする体制になった。子どもって、どうしてこんなに軽くて暖かいんだろう。
「神楽、この栗きんとん誰?」
「あぁ、こいつは…」
「神楽の彼氏でさァ」
総悟の顔をみてギロリと睨みつける爽痲。
「神楽は、僕と結婚するんだ!だから栗きんとんとは別れるの!」
「は、はあ?」
今度は総悟が爽痲を睨みつける。本当に総悟は幾つになっても精神年齢が低いらしい。子どもの戯れだ。軽く受け流せばいいものを…。
「僕今日から、神楽のうちに住むから!そう言えば、妹もいるんだ!」
「爽痲、妹って何歳アルか?」
「杏佳は3歳だよ!僕とは7歳差なんだ!」
「杏佳は今どこにいるアル?」
「あそこにあるお寺のところ。小さくて可愛いんだ!僕の自慢の妹!」
「爽痲、今日はうちに泊っていくと良いアル。本当にママいないアルか?」
「うん!本当だよ!」
聞いてみれば本当にいないようだ。これからどうしたものか。とにかく、今は爽痲の妹である杏佳を(総悟が)おんぶして帰路についた。
はちゃめちゃな生活が始まると知るのは、もうすぐそこ。