世界がもし | ナノ


白昼堂々惰眠を貪っていると思われていた男が、見知った少女に負ぶわれて…というより担がれて屯所に運ばれてきた。

「ケガ、してるアル。…コイツ」

「総悟!?チャイナ娘、何があったか知ってるか」

「共同接戦、不本意だったけどナ。私が来た時にはぶっ倒れそうだったヨ。取り囲まれてて、助けないわけにもいかないしナ。それと、トッシーに不本意だけど…頼みたいことがあるアル」

チャイナ娘の表情を読み取って頷いた。チャイナ娘から総悟を受け取り、すぐに山崎を呼ぶ。今、治療を優先しなければならないのは総悟ではなく、チャイナ娘の方だ。

よく見れば、額にはびっしょりと汗をかいており、顔色も悪い。背後に回って傷口を見た。立っているのもやっとなんじゃねーか?

ガクンと倒れそうになる体を右手で支える。ドタバタと山崎が走ってくる音が聞こえた。息があがるチャイナ娘は、更に顔色が悪くなった。

いくら夜兎とはいえ、痛いものは痛い。傷だって、人より治りは早いが、1日で直る訳じゃない。と、チャイナ娘が言っていた事を思い出す。

山崎が総悟を、俺はチャイナ娘を部屋まで運んだ。







「山崎、チャイナ娘の具合はどうだ?」

「チャイナさん、自分である程度の応急処置をしてたみたいですね。それでも相当危険でしたよ。沖田隊長の場合は、大丈夫です。深い傷もありますが、命には別状無いですから」

「そうか。万事屋には連絡したか?」

「はい。ですが、旦那は留守のようで。志村邸にも連絡したんですが、新八君も同様でした。姐さんは多分局長に……」

「あぁ分かった…。とにかく、総悟が起きねえ事には詳しいことはわからねーし。チャイナ娘もこの有り様じゃな…。こりゃさすがに3、4日ぐれーは治んねえんじゃねぇか?」

「チャイナさんも無茶しますね。沖田隊長の事、嫌いなんじゃなかったですっけ?」

「年頃のガキは何考えてんのかわかんねぇが…何となくだったら分かるかもしれねぇ」

チャイナ娘の場合は、違う可能性は大だが、総悟の場合はもしかしたら…。静かに眠る総悟とチャイナ娘を交互に見た。安らかに眠る総悟に比べ、チャイナ娘の方は眉間に皺を寄せ、苦痛に耐えている。

「あ…れ?」

「目を覚ましましたか、沖田隊長!」

「ってて…俺なんで屯所に。確か公園で攘夷浪士に囲まれて…チャイナが…!チャイナは!?チャイナはどこに!?」

「お前の隣だ。テメーが怪我してんのに、お前をここまで運んできたんだ」

「チャ、イナ…。俺のせいなんでさァ。俺のこと庇って…」

「見りゃあ分かるよ、んな事。攘夷浪士はどうした?」

「恥ずかしい話、チャイナに助けられたことまでは覚えてるんでさァ。けど、そっからは気が跳んじまって」

「お前がなァ……」

「すいやせん」

普段のこいつからしたら偉く素直に謝るもんだから、どこか斬られたのではと本気で思ってしまった。

「いや、かまわねぇよ。無事だった事が何よりだ。チャイナ娘もな。怪我しちまったが、生きてりゃあ十分だよ」

「一つ、お願いっつーもんがあるんですが、いいですかィ」

「あぁ。今日だけだ」

「…チャイナと、二人きりにしてもらえやせんかねィ」

一つ小さく頷くと、総悟は軽く会釈をした。

「そんなことなら、喜んで席を外すぜ。なァ、山崎」

「はい。沖田隊長、チャイナさんの看病おねがいしますね」

「すまねえ」



* * *


守るために戦う。あの時もそう思った。だから戦った。サドが、…沖田が殺(ヤ)られそうになっているのを見て、大切な物をまた失ってしまうと思ったのだ。

人間だからって、私の大切な人達を奪おうとするヤツに、天人も人間も関係ないと思ったから全力で戦ったんだ。全力で戦ったけど、でもやっぱり殺したりはできなかった。

庇ったことで、太腿裏を深く切りつけられてしまったけれど、これで沖田を守る事が出来たと思うと、そんな傷なんてどうでも良かった。

ただ、守ることに必死。

全てを終わらせた後、沖田を担いで屯所に向かった。傷口が痛む。立っていられないくらい痛むが、我慢した。

トッシーに沖田を手渡した後、急に意識が遠くなるのと同時に視界が真っ暗に暗転した。





薄ら目で広がった視界に入ったのは、見慣れない天井だった。左手に、暖かい温もりを感じる。

まだはっきりしない意識の中で、すぐに分かったのは、私の手を握ってくれているのは沖田だったと言う事だけだ。

はらり、と右目から一粒小さな涙が流れた。涙が、冷たいと感じたのは私の涙じゃなかったから。

「どうして、泣いてるネ」

「…っ、すま、ねえ」

「お前のせいアル。私も、涙出てきたネ」

「チャイナ……」

「沖田が生きてて、良かった」

左目から、暖かい涙がこぼれた。こんなにも、愛しいなんて思ったことない。こんなにも君が、私が生きてて良かったなんて思った事ない。

「神楽が生きてて、良かった。…ありがとう。好きだ」

はっきりしてきた視界、働き出した脳をフルに動かして小さく笑って言った。

「そんなに一気に言われても、困っちゃうアル、ばーか」





世界がもし、君の居ない

界だったら僕は喜んで

死を受け入れるだろう。





お誕生日おめでとう!



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