「昨日、近藤さんと何処に行ってたんでさァ」

隊服に袖を通しながら、神楽は沖田を横目に見て溜め息をついた。

「別に、何もしてないアル。ただ飲みに行っただけヨ。だいたい、そんな事お前に干渉されるような仲じゃないネ。いちいち、その辺の彼氏ヅラすんじゃねーヨ」

「は、言ってろィ。俺ァただ近藤さんが心配だっただけでさァ。テメーの事なんざ、これっぽちも干渉しねえよ。それに、誰がお前の彼氏だ調子のんなよこのクソアマ」

「はっ、勝手に言ってろヨ。ていうか、いつまで居るつもりアル。乙女のお着換え中に、堂々と部屋ん中に入ってんじゃねーヨ、クソサド」

「テメーの体はそんなに高価なもんじゃねえだろィ……。チャイナ、近藤さんを裏切るようなことしてみろよ。俺は全力でお前を殺すからな」

「あーあー、嫌アルなぁ。短気は損気アルよ?だいたい、私がゴリを裏切ってなんの意味があるアルか」

「そうだな、俺の考えすぎだった。着替えたら隊首会に来な」

そう言って沖田は神楽の部屋から出て行った。しばらくして沖田の気配がなくなったのを確認すると、神楽は隅に置いていたカバンの中から一本のペンを取り出す。ペンの蓋部分には小さな隠しカメラが搭載されている。音声も拾えるものだ。

「敵を騙すにはまずは見方から…アルか。ゴリも人が悪いアル。こんな乙女にやらせるなんて」

立ち上がった神楽は、そのまま近藤らがいるであろう隊首会へ向かった。隊服のポケットにペンを入れることを忘れずに。




「おはようアルゴリ」

「おはようチャイナさん。昨日はすまんかったな!どうも酔いが早かったらしくて!!」

「別に大丈夫アル。昨日は私も何かと世話になったしナ」

笑いが絶えない二人の話に聞き耳をたてながら、イライラする衝動を抑えようとする沖田。そんな沖田に土方はため息を吐いた。

「チャイナ娘が気になんなら話しかければいいじゃねーか」

「近藤さんが気になるだけでィ。それより早く隊首会しやしょうぜ。こんなクソ女待ってたらいくら時間があっても足りねえや」

沖田の発言に神楽もイライラが募ったが、近藤にセーブされケンカ勃発とはでは行かなかった。そしてやっと神楽が席に着き隊首会が始まるかと思いきや近藤の『お偉いさんが来る』発言によりしばし待ち時間ができることになった。

「近藤さん、そりゃ早く言ってくれや」

「すまんすまんトシ。最近物忘れが多くてな!!」

「しっかりしてくれよ、近藤さん。あんたが局長なんだぞ」

さらにため息を吐く土方。その隣の近藤はそんな土方を笑いながらふと神楽を見据えた。ギクリとした神楽だったが、近藤の視線の意味を理解すると小さく頷いた。

「やっべー、私トイレしたくなったアル」

神楽の発言にいち早く反応したのは土方だった。何やら不満有り気な表情をした土方だったが、一つ頷くと別に問題ないとでも言うように煙草をふかし始めた。

隊首会室を抜けた神楽は自室に戻り素早く普段のチャイナ服に着替え始める。エイリアンハンターになり服装もそれなりのものになった。久しぶりに袖を通す、対エイリアン用の服はそれなりに着こなされており、少々くたびれていた。

着替えが終わると襟元に装着した小型無線機に向かって『準備できたアル』と言い足早に部屋を出ようとした。…が、すぐに襖の前で立ち止まる。息を殺して外の気配を探った。

『どうした?』

「…誰か外にいるアル」

『…できるだけ、皆に知られないように頼んだぞ』

「了解ヨ」

「なーにが了解なんでィ」

ギクリと肩を揺らす神楽。恐る恐る顔をあげるとそこには憎い沖田の顔があった。こいつであろうと予想はしていたが…。

「チャイナ、言ったよな俺。近藤さん裏切るようなことしたら殺すって」

そう言いながら左腰の刀に手を掛ける。神楽は冷静を保ちながら考えを巡らせていた。

「裏切ってなんかないアル」

「じゃあなんで着替えてんだよ。それに今誰かと話してただろうが」

カチャリ、と物騒な音が妙に静かな室内に響いた。言い訳は通用しないと考えた神楽は、無線機に向かって声をかける。

「…どうするアルか。お前がちゃんと見張ってないから見つかったアル。そっちに居たんならしかり監視くらいしてて欲しいネ」

『え、だって…まさかアイツまで出ていくとは思わなかったんだよぅ。いつのまにかいなくなってたんだ』

「まぁ、あの件は私だけでするアル。けど用件は言わなきゃきっと引き下がらないアルよ、こいつ。今にも私を刺殺しそうアル」

「おいチャイナ、誰と話して…」

『お願い!総悟!チャイナさん斬らないでぇえ!!』

「って、近藤さん?」

「そうアル。あ、ゴリ無線切るヨ。…ゴリから昨日の夜頼まれたアル。内容は秘密だけどナ」

不服そうな沖田の顔。絶対私についてくるとぬかすだろう。でも、駄目だ。

「どっか行くんだろィ、だったら俺も…」

「駄目アルな。ゴリは私に頼んだんだから。それに、今は秘密だけどお前とトッシーにはここに居てもらわなきゃいけないアル。馬鹿なサドのために一つヒントをあげるネ。……今日来るその『お偉いさん』、本当にお偉いさんだと良いアルな」

「な、それって…」

たしかに、松平の『独断』による調査を直下である真選組に任され、お上は関係ないはずだ。しかも内密。それなのに今日の隊首会にわざわざお上が来るのはおかしなことだ。考えてみれば簡単なこと。調査がお上に流れるはずがない。考えられることは一つ。

「この真選組にいる、本物の裏切り者を見つけなくちゃいけないアル」

ニヤリ、と神楽は笑った。













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