山崎視点
(総楽と神悟の一日。沖田神楽/デート/夫婦)
騒がしい一日が始まりそうだ。そんな予感がした今朝。荒らしの前の静けさとはよく言ったものだと思う。いつもなら、副長を暗殺せんばかりに騒いでいる沖田隊長の声が全く聞こえないのだ。
あぁ、沖田隊長は数年前に結婚して子供も二人いるんです。家を買ったようで、その家から毎日通勤をしています。屯所に来れば、毎日のように奥さんのお話をされて…。正直迷惑してるんですけどね。
でも、いいと思うんです。あの沖田隊長が、局長以外に大切な人を作って、毎日を楽しく暮らせているんですから。まぁ、結婚相手というか沖田隊長の奥さんがチャイナさんだって時は、みんな相当驚いてたんだけど…。
一番泣いていたのはやっぱり局長だった。次に万事屋の旦那。副長はやっとかとでもいうような溜め息。顔、ニヤけてたんですけどね。副長には内緒です。
そして、結婚してからわずか半年で「妊娠しましたー」なんて事を聞いた時は皆笑っていました。局長はやっぱり号泣だったんだけど。
それが、神悟君と総楽ちゃんです。神悟君は基本的に沖田隊長と似ている容姿をしていて、総楽ちゃんの場合は、チャイナさんと似ている容姿です。親が親なだけに、二人とも美形で将来は期待できる…。これは沖田隊長が言っていた事なんですけどね。
話を戻します。朝早くに俺は屯所の食堂で朝飯を食べていました。荒らしの前の静けさまっただ中の時です。残り数分のその時を、その後に起こることなど全く予知できずになめこ汁のおいしさに浸っていました。
そして次の瞬間。荒らしの前の静けさは終わりを告げたのでした。
「さーがーるー!!」
ムギュッという擬音語が多分一番合っていると思う。きっと、俺の背中に抱きついているのは総楽ちゃんだ。鈴のような高く、可愛い声色に頬が緩む。しかしすぐに顔を引き締めた。…いや、強張ったと言った方が良いのかもしれない。というか、強張った。
「ざーらーきー!」
「あれ、今死の呪文言いました?言いましたよね沖田隊長!!」
「しょうがねえから痛めつけて殺してやらァ。有難く思えィ」
「い、いいです!そ、総楽ちゃんが退いてくれたら俺助かるんだけど!!」
「もう。しょうがないあるなー。でも、パピーとマミーが今日はでーとに行くらしいから、その時はいっしょに遊んでくれるよね?」
「え?デートですか?そんな話今初めて聞いて…。しかも沖田隊長、今日非番じゃな…」
「山崎。…俺は今日は非番だよな?」
そんなに真剣を首に当てないでください!分かりましたから!俺まだ死にたくないですってば!!
「だ、大丈夫です!俺から副長には言いますから!」
「頼りになる観察兼隠密で助かりまさァ。へますんじゃねーぞ。じゃ、神悟と総楽は頼んだぜィ。行くぞー神楽ァー」
荒らしの前の静けさはとうの昔に吹っ飛んでいた。一つ荒らしが過ぎたと思えば、また荒らしがポツポツと出来上がる。そして、俺に大きな被害をもたらすのだ。なんて疫病神な家族なんだ。
まぁ、そう思ったのはそこまでで、神悟君と総楽ちゃんと過ごすのは以外にも楽しかった。縁側で一緒に生菓子を食べたり、買って来た抹茶味のアイスクリームを食べたりと、まるで本当に親になったような気分だった。
アイスクリームを買いに行く途中で、デート中の沖田隊長が、チャイナさんを連れていかがわしい宿に入って行く場面を目撃したのだが、あえて突っ込まないでおこう。…突っ込まないって言うのはそっちの意味じゃないですからね!
「さがる?汗いっぱいある。具合わるいあるか?もう、屯所に帰ろう?」
「そうだぜ、やまざきー。父上が押し付けたからって、無理におれたちの面倒なんて見なくってもよかったのに」
こんな他人思いなところはたぶんチャイナさんを受け継いだのだろうか。沖田隊長に似ていたのならば、人の不幸を楽しむはずだ。いや、別に今この状況が不幸と言うわけではない。
「最近の父上は他人を使うのがあらすぎなんでさ。母上が言ってやした。俺達には、人を思いやる事が出来る人になってほしいって。絶対に父上のようになっては駄目だって」
「マミー、優しいよ。総楽、マミー大好きある!」
沖田隊長、残念ですね。お子さんからの信頼度は激しく低いもののようです。
「でも、パピーも優しいんだよ!総楽ね、まえにマミーが悪い人につかまっちゃったの!そうしたらパピーが、マミーのこと助けたある!総楽とお兄ちゃんは危ないからって、お外にいたけど、マミーお姫様抱っこして出てきたパピー、すごくカッコよかったね!」
もしかしたら、あの時かもしれない。前に沖田隊長が転んだとか言って大怪我をして出勤した時があった。
「沖田隊長も、奥さんが危ない目に会ったら流石にそうなるんだね…」
「マミーだけじゃないよ!」
「父上、俺も総楽も屯所にいる皆守るって言ってたんでさ」
「パピーは強いから、皆を守ってくれるある!総楽、パピー好きね!」
「父上にはないしょですぜ?聞いたって知ったら、やまざき死んじゃうかも…」
冗談に聞こえないから余計怖いです。
「分かったよ。沖田隊長には言わない。ほら、アイス食べるんでしょ?買ってあげるから行くよ」
「アイス!アイス!」
小さな体を大きくジャンプしながら前に進む総楽ちゃん。昔のチャイナさんのようで笑えてきた。実は、沖田隊長には秘密の話なのだが、前にチャイナさんが結婚するまえに二人で茶屋に行った事があった。
別に俺はチャイナさんをそんな対象で見た事はないし、チャイナさんも俺をそんな対象で見ていない事は分っていたからそうしたのだが、その時のチャイナさんが沖田隊長の悪口を言う時の表情は悪れられない。
真っ白な頬を薄紅色に染めて、唇をとがらせながら言う彼女は、沖田隊長が惚れてしまうのも分かるほどに美しかった。彼は自分よりも幾分年下であるため、人生の兄貴分としては何とも嬉しかった記憶がある。
あぁ、彼はこんなにも彼女に愛されているのだと。
『内緒話アルよ?絶対沖田に言うなヨ?!』
『分かりました分かりました』
『もし言ったりしたら、ジミーをこの手でぶっ飛ばすアル!』
『冗談に聞こえないんで止めて下さいよ!』
『ふふ、冗談ヨ。冗談』
柔らかな笑みで笑う彼女は、本当に微笑ましかった。沖田隊長に見られてでもしたら、本当にぶっ飛ばされるでは済まなかっただろうけど、本当に良かったと思う。
「さがる?どうしたあるか?まだ具合悪い?」
「大丈夫大丈夫。それより、ちょっと聞かせたい話があるんだ。この話は、チャイナさんと沖田隊長には内緒だからね――…」
Closing day
(ただいまアル!)
(マミーマミー!さがるのお話し本当あるか?!)
(母上が結婚前に屯所に来てっていう話!)
(どうしてそれを…!ジミー!!)
(神悟、総楽。その話、詳しく聞かせろィ)
(話さないって約束だったじゃないか!!)