いつか見た。
真夜中にチャイナが一人、万事屋の屋根にのぼって夜空を眺めていた。
声をかけようとしたのだが、何となく、ただ声をかけるだけなのに、かけることが出来なかった。
そして今。
また、チャイナは一人夜空を眺めていた。今度こそ、声をかけよう。
たかが、恰好の喧嘩相手に話し掛けるだけなのに、どうしてこうも緊張しなければならなかったのかは不明だったが、それでも高鳴る鼓動をおさえて屋根にのぼった。
「よォ、チャイナ。こんな時間に何してやがるんでィ。」
「五月蝿いアル。私がいつ、何処で、何しようがサドには関係ないネ。」
その言葉に、少しだけムッときた。わざわざ、心配をしてあげているのに、そんなふうに思われちゃ、心に傷がつくものだ。
あれ、待て。どうして俺は、他人の、しかもマウンテンゴリラの雌なんかの心配をしているんだ?
心配しなくても、チャイナには旦那だって、駄メガネだっている。姐さんだっているし、別に俺が心配しなくても……。
「別に、理由くらい教えてくれたっていいだろィ。へるもんじゃねえんだし。」
「……。いいアル。……最近、やたら晴れてるダロ?だからあんまり外に出られないアル。それで、夜は陽射しもないし、空を拝められるネ。」
あぁ、彼女は天人だったな。そう思っていると、チャイナは俺の目をしっかりと見て言った。
「太陽は好き。でも夏は嫌い。雨は好き。でも、雨空は好きじゃない……アル。」
最初こそ意味が分からなかったのだが、俺から目を逸らしてまた夜空を眺めるチャイナを眺めていると、自然と、口が動いた。
「今度、絶景の夜景を見せてやりまさァ。」
そう言うと、チャイナはこちらを振り向き、目を輝かせながら答えた。
その返答に、俺から笑顔が零れたのは、また違うお話……。
真夜中に君を迎えに行く
(だから、窓は開けておいてね)