少し、話をしないか。

そう言われたが何も話す気にはなれなかった。だってそれが普通だろう。

今現在辛うじて恋人と言う関係を持っている彼女と、もっとも親しくしているのがこの男なんだから。

恋敵なんてそんな甘いものじゃないかもしれない。

もう狂気に近い。

どうして彼女は俺ではなくこんな病弱な男が好きなんだ。

て、まだ彼女が奴を好きなのかどうかもはっきりと分かっていないのに決めつけるのは心臓に悪い。でも、もしも・・・。

そんな考えが脳内を支配する。

「すまねえが、今はそんな気分じゃねーんです。悪いけど、また今度にしてくだせィ」

「あ、そうですよね!すみませんでした!沖田さん、それではまた」

ぺこりとお辞儀をしてその場を去って行った本郷の背中を見つめた。








前に尚と総悟が似ている。そう思ったことがあった。

けれどそれは大きな間違いだ。礼儀だって、尚の方が総悟よりはるかに上だし、頭だって尚の方が上だと思う。

健康的な体は総悟の方が上かもしれないけど、それでも笑顔を私に見せてくれて、そして安心するのは尚。

総悟の事はもう好きじゃない。好きじゃないんだ。

あんな浮気者、早く捨ててしまおう。そうだ。今夜、別れのメールをしよう。

本当は二人で行くつもりだった映画のチケットは尚にあげよう。

私は、もう総悟の彼女じゃなくなるんだ。・・・解放されるんだ。


学校から帰って、すぐにメールを開いた。

新着メールが一件。誰だろう。姐御かな。尚かな・・・?

「・・・トッシーアル」

意外な名前がそこにあった。でもどうしてトッシー?

あぁ、そっか。総悟と私の事についてなのかもしれない。だったら、もう別れるって返しても良いよね?

だって、総悟は私の事が嫌いで、私も総悟の事が嫌いなんだから。

「あー。ムカつくアル」

せっかく作成したメールの送信ボタンを押せない。ムカつく。


「なれない事はするもんじゃないアル」

ぱたんと閉じた携帯。送信しなかったのは、ただの気まぐれだ。


悲しい。・・・なんて、思うわけないじゃないか。


この、馬鹿浮気者総悟。


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