初めて見た、小さな命。それが、俺達の細胞を分け合って成ったと思うと、頬が緩んで仕方がない。

分娩室に入れてもらい、生まれた時のあの産声を聞いた時は、本当に心の底から嬉しさが込み上げて来た。

俺は、初めて物を見るような表情で、ただ黙ってその子を見つめていた。

その時、後の方で、聞きたくない声が聞こえてきた。

土方さんだ。




「小さいな。」

「あんたの肝っ玉も小さいですぜ。」

「テメーもな。それにしても…恐いくらい似てるな。」

「当たり前でさァ。俺達の子供ですからねィ。」

「そう簡単に死なねなくなったな。」

「俺は神楽を置いてここを去るなんて事は、しやせんぜィ。」

「ま、せいぜい頑張るこったな。」

「言われなくとも分かってまさァ。」

「そうか。……小さすぎじゃねえか?」

「神楽に似たんでさァ。目の色は俺ですかねィ。」



そうか。そう言うと土方さんは、病室から出て行った。気を遣わせたのなら気分が悪い。

それは、奴に気を遣わせるのは、俺のプライドが許さないからだろうか。



「ん……。」



子供の顔を眺めていたら、すぐ隣で甘い声が聞こえた。



「悪りィ。起こしちまったかィ?」

「ううん、悪くないアル。……ぁ、子供、見ててくれたアルカ?」

「あぁ……。小さいな。」

「赤ちゃんだからナ。」

「それもそうか。」



フフッと、昔の彼女からは考えられない声が聞こえてくる。やはり人は変わるのだ。



「でも、本当……小さいアルナ。強く握ったら壊れちゃうヨ。」

「大丈夫でィ。俺達の子供なんだから。」

「名前決めたアルカ?」

「あぁ、勿論。」

「教えるヨロシ。」




俺は、うーん。と、一つ声を漏らして、勿体振らせた。その俺の態度が気に食わないのか、神楽は顔をギュッとしかめる。

あーぁ。それじゃあせっかくの可愛い顔がだいなしじゃないか。

俺は神楽の眉間に寄ったシワをパチンッとはじいた。



「痛いアル。で、名前は?」

「あー、うん。総楽。」

「総楽?ヘヘッ、良い名前アルナ。」

「だろィ?」

「うん。ぴったりネ。」



そう言って微笑む神楽。


総楽がこの病院を退院するのはいつ頃だろうか。

病室から他の赤子が居る部屋へ移動される総楽。

俺は神楽を車椅子に乗せてそこへ向かっている。


「あ、ここアル。」



目の前には、誰の子かも知れない赤子達。多くいるはずの赤子なのに、その中から総楽を見つけるのは簡単だった。

俺は、ガラス越しに総楽へ手を近付ける。必然なのか、偶然なのか、多分それは後者なのだろうが、総楽がガラス越しに手を宛がった。

それはそれは小さな手だったのだが、この子が俺達の愛の結晶だと思うと、夢中になれずにはいられなかった。



「小せえ………。」





ガラス越しに触れる手は



(とても冷たく暖かかった)






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