優々と過ごしていた高校2年。担任の坂田銀八が修学旅行があると行った時のクラス中の騒ぎようと言ったらそれはもうすさまじかった。

ある者は好きな女に抱きつこうとするが殴られ半死。またある者は人気アイドルの写真に接吻をする始末。俺はもしかしたら入る学校を間違えたのかもしれない。

「んじゃ今からグループ決めすっから、お前らで適当に決めておけー」

『はーい』

なんて思ってたのは中学の頃でおしまいだ。今ではその修学旅行と言う行事が楽しみで仕方がない。なんでかって?そりゃあ勿論好きな女が居れば楽しみにもなるだろう。好きな女ってのが例え馬鹿力のマウンテンゴリラのような、女とも思えない奴だったとしてもだ。

「恋って奴は怖いねィ・・・」

「何が怖いアルか?」

ドサッ・・・。

「・・・いきなり話しかけんな。つか、テメーなんで此処に居やがるんでィ。席替えして反対側になったろ」

「だってあそこの席詰まんないアル。ハム子に新八にゴリラにジミーって、先生はどれだけ私の事を嫌ってるアルか」

「それは残念だったねィ。こっちは土方さんが居てくれるおかげで出会い系に行きまくってるからつまらなくないし」

「ふーん。いいなー。私も出会い系サイトとか見てみたいアル」

「んじゃ今から見るかィ?土方さんの携帯で」

ひらひらと土方の携帯を見せびらかした。ていうか、なんでコイツ最新型の携帯たんだよ。ニコチンコのくせに。

「なーんでお前が俺の携帯持ってんだよ!!」

「あれ、土方さん居たんですかィ。知らなかったなー。すみませんでしたー。俺、土方十四朗って奴は視界に入れない主義なもんで」

「完璧俺だよな!遠まわしでもなくストレートに俺だよな!」

「俺、今からチャイナと一緒に出会い系堪能しないといけないんで。あ、そうだ。次の授業サボるんで、先生に言っといてくだせェ。修学旅行の班は・・・。そうだ、チャイナと一緒でお願いしやす。こいつ居ないと喧嘩相手・・・っていうか馬鹿にする奴居ないんで」

手の甲でチャイナの頭をボンボンと叩いた。チャイナは怒りながら俺の指を折ろうとするが、適当にあしらっておく。あ、今手噛まれた。

「テメ、私がお前の携帯で出会い系してやるアル!なめんなヨ!」

「論点が不明なんでィ。ま、訳の分んねえ馬鹿チャイナは放っておいて。ニコチンコマヨラーさんお願いしやすね。行くぜィ、チャイナ」

「あ、ちょ待つアル!!て…手が…」

チャイナの呟きなんて聞こえるわけがない。携帯を片手に屋上まで突っ走った。

「・・・二人とも顔真っ赤にしやがって。しょうがねえな。一緒の班にしてやっか・・。ってあれ?俺の携帯・・・・・」



* * *



結局俺とチャイナは一緒の班。まぁ、俺が土方コンチクショーに頼んだのだけれど。でも、人生最後の修学旅行は好きな奴となりたいっていうのはしょうがないだろ?

チャイナの方は俺の事何とも思ってないみたいだけど。

「で、結局どこを回るんだヨ。て言うか、何でハム子もいるアルか。ハムは工場に戻れ」

「神楽さん最近太ったんじゃないの?良いダイエットの仕方教えてあげようかー?」

あらか様にチャイナを嫌うハム子、もとい公子は自身の体系を自覚しているのか。と言うより、チャイナは太ってなんかいない。どちらかと言うともう少し肉をつけてほしいくらいだ。主に上半身に。

あ、でも貧乳も萌える。

「お前はハム以下アル。ごめんなさいヨ。ハムに悪いこと言っちゃったアル」

はぁー。っと溜め息をして『ハムさんごめんなさい』なんて言ってるチャイナがひどく可愛らしい。

「ちょーウザいんですけど!!ねぇー沖田君、一緒に回らない?」

うわ。こっちに寄ってきた。ハムになっちまう。

「新八ー。ハム子が一緒に回りたいそうアルよー。沖田の代わりに、一緒に回ってやるヨロシ」

チャイナが俺を助けた。マジでか。あのチャイナが。

「あ、でも沖田がハム子と一緒に回れば私は一人で酢昆布巡りが出来るアル・・・」

「なーんて事言いやがるんでィ。俺がハムになっちまうだろィ。だいたい、俺はお前と―…」

「お前と、何アルか?」

「いや、何でもねえ。ただ、俺はお前と喧嘩しないと息もできないって言いたかったんでィ」

ポカンとするチャイナ。目が点になってやんの。

「ちょ、沖…え?」

「ど、どうしたんでィ」

ただならぬチャイナの態度に、どこか具合が悪いのかと思ってしまう。

「・・・告白アルか!!??」

今度はこちらが目が点になった。え?今のをどう変換したら告白なんて大それたことになるのか。アホだ。この子はアホだ。しかしそこがまた俺のツボを突く彼女の魅力でもある。

ここで『違う』と言ってしまうと後が面倒だ。もういっその事今『はいそうです。僕が好きなのは君なんです』と言ってしまった方が楽ではないのだろうか。その方が修学旅行も、もしかしたら楽しいものになるのかもしれない。

「わ、私・・・」

モジモジして頬を赤らめて、俺を誘ってんのか?

「私も、好きアル!!」

きた、これ。神様は俺の事が好きなのだろうか。まさか、まさかチャイナから・・・!いや、この場合は俺からの告白になっているのから俺からなのだろうが・・・。春がきた。俺に、やっと春が来た。

そこらへんに桜の花びらがハラハラと舞い落ちてくるのが分る。というより――・・・。

「紙吹雪じゃねーかよ!!!」

「いやー。総一郎君、よかったね。文化祭、体育祭、修学旅行はカップル生産率が普段より3倍増しするんだけどさー。うん。まさか君たちがカップルになるなんてね・・・。神楽もさ、なーに顔赤くしてんの」

銀八がのんきに欠伸をしながら言っている。机に突っ伏しているチャイナの耳は真っ赤だ。林檎だ。食ってみたい。

「んじゃ、修学旅行の班も決まったし?行くところは当日までに決めとけよー。面倒だから今日は終わりだ」

残すは最後のショートだけだから、チャイナの席の隣に移動した。パッと顔をあげるチャイナ。

「・・・まぁ、その。よろしくな」

「こちらこそ・・・アル」

な、何なんだ。このもどかしい距離感。どうせならゼロにしたい。ちゅーしたい。

「・・・修学旅行、一緒に回ろうな」

「うん!!」

ニヘらと笑いながらチャイナは口元をあげた。


猫みたいだ。





* * *



あれからそんなこんなで修学旅行当日となった。チャイナと俺は順調に付き合いをしていて、ちゅーもしたしその先も経験済みだ。

「んじゃ、バスに乗り込むぞ。席順は前決めた通り班になって乗れよ。くれぐれも騒ぐんじゃねぇぞ。特に神楽と沖田!!」

『はーい』

チャイナとは今まで通り喧嘩もするし、馬鹿したりもする。仲が良いバカップルとは俺たちの事を言うらしい(担任・ニコチンコ談)。





「あ!サド、お前はこっちにすわれヨ!私は窓側が良いアル!!」

「あぁ?俺だって窓側が良いんでィ。大人しく座ってろィ。ほら、酢昆布やるから」

「マジでか!ひゃほーい!!酢昆布アルぅぅ!!」

素直に通路側にすわったチャイナ。ちなみに、二人きりの時だけは名前呼びになる。

「あ、てめっ。俺の手まで食ってんじゃねーよ!」

「うえー。毎晩シコッてる手を食ってしまったアル」

「毎晩チャイナをおかずにしてるから大丈夫でィ」

「へ、ヘルスミー!!銀ちゃん!聞いたアルカ!!コイツ毎晩私をおかずにしてるって!!」

「はーい、沖田くーん。ここで下ネタは厳禁ね」

「チャイナを見てたらムラムラしてしょうがないんでさァ。あ、部屋振りも俺とチャイナ一緒でしたぜィ。あの部屋割り、俺達参加してなかったのにねィ」

「最悪アルー!!!!」

「んな喜ぶなよな」

「喜んでねーヨ!私恨んでんだからナ!部屋決めの時、お前私と一緒に屋上居たダロ!絶対知ってて屋上連れてきたよナ?新八を脅してたのも知ってるアル!」

チャイナの口から男の名前が出るのは少々・・・いや、大いに好まないが、まぁ今回は俺の企みであるため完全に俺に非がないとまでは言えない。でもいいじゃねーか!人生最後の修学旅行を、これで満喫できるんだぜ?

「俺、死んでもいいから・・・」

「な、何ヨ。いきなり・・・」

「夜這いさせて下せェ・・・」

「ぎんちゃーん!ここに変態が居るヨー!!」




* * *



「えーと、これが3-Zの階ね。今日は近くを散歩する程度でなら出歩き可。まぁー・・・、菓子もいいんじゃねーの?ただし、みんなチョコを買って来るよーに」

「せんせーい!それは只単に先生が食べたいからですよねー?」

「新八ィ、今そんな事関係ねぇーだろーが。黙ってチョコを買ってこーい。そして俺に献上しなさい!」

「いや、やっぱそうじゃん」

修学旅行でも3Zは3Zだ。アホしかいないこのクラスは、毎度のようにアホな会話を繰り返している。書く言う俺も、多分そのアホの中の一人ではないだろうか。自分で言うのは悔しいけど、チャイナと対等ならそれでいい。と言うよりそれが良い。

俺は完全にチャイナ中毒だ。あの片思いの時期はまるで百年戦争でもしているかのような長く苦しい月日だった。

割り当てられた部屋へ入ると、そこはもうアレだ。・・・ダブルサイズのベットが二つ。狙ってんのか。狙ってるって言えコノヤロー。どうして二人部屋なのにダブルなんでィ。有難いじゃねーか!

「・・・神楽はそっちのベットな。俺はこっちのベット使うから。あ、でも夜中に夢遊病が出ていつの間にかそっちに行くから隣は出来るだけ空けといてくれィ」

「て、もう肯定じゃねーかヨ!なんだヨ、いつの間にかそっちに行くって!行くって!!せめて行くかもにしろヨ!ていうかこっち来るナ!!!は・・・、は・・ずかしいアル!!!」

デレた!!この状況で、あのチャイナ・・・じゃねーや、神楽がデレた!!!もうこれは誘ってんだろ!誘ってるって言え!!

「もう、可愛すぎるんでさァ!つか、他の部屋って和式なのに二人部屋は洋式って・・・。みんな気を使ってくれたんだねィ。ほんと、良い友達を持てて俺ァ幸せでさァ」

「心の底から言った言葉とは思えないほど顔がニヤニヤしてるアル。もうイッてるアル。あの世に」

「え、イきたい?マジでか。へぇー。神楽って意外とヤリ…グヘッ!!!」

「人聞きの悪い事言わないで欲しいアル。だいたい、ちゅーするのもその先も全部全部総悟だけヨ!!」

無意識と言うのは時に嬉し過ぎて唖然とするような事をさらりと言いのけるから怖い。冗談半分で誘ってみたが、これでは本当に俺の理性が持たないだろう。あぁ、愛しい愛しい愛しい!!

「と、とにかく今日は何にもしねえから一緒に寝ようぜ!!!」

「約束アルよ?」

上目遣い制服の隙間から見える薄いピンク色のブラは・・・たまらん。

「あ、あぁ。約束でィ」

「そろそろ夕食の時間アルな!いっぱい食べるアル!!」

「程ほどにしろよな」

「ほーい!」




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