腕にまとわりつく女を、心の中で舌打ちしながら見た。んだよコイツ。いつの間に俺に触ってんだ。
「ねぇねぇ。さっき窓から見えた子って、沖田君の元彼?」
言っていい事と悪いことの差というのは、最近の女は知っているのだろうか。いいや、このバカ女は知らないだろう。
「元彼じゃねぇ。いまも付き合ってらァ」
「え?じゃあ、じゃあ、もしかしたら浮気だって思われたんじゃないの?」
胸を押しつけてくるな。興奮するのも勃つのも全部神楽だけなんだよ。お前みたいな女食ったってなんの得もないだろうが。
「そんでもって嫉妬してくれたら最高なんだけど」
ポツリと言った言葉はバカ女には聞こえていないようだ。ていうか、そろそろ離れろ。香水臭いしたまったっもんじゃない。
あー。神楽の匂いが良い。神楽の匂いを肺いっぱい吸い込みたい。神楽が居ないと俺はやっていけない。
神楽神楽神楽!!
「じゃ、お前さん名前なんだっけ。まぁいいや。もう話すこと無いし。んじゃ」
「え?沖田君、ちょっと・・・・」
伸ばされた手を振り払った。
「俺に触んな」
冷たく睨みを利かせると、小さく息を吸い込んで女は走り去った。
神楽ならきっと怯まずに俺に殴りかかってくるんだろうな。それか、同じ事を返されるか。
あぁ、もう。神楽が俺を避け始めてから俺は神楽不足になっている。神楽が四六時中頭から離れない。
「くそ」
頭に来る事ばかりだ。
神楽は俺の事本当に嫌ってるのか?俺の思い違いかもしれないが、さっき見えた神楽は酷く悲しい顔をしているように見えた。
もしそうなら、そうであってほしい。
ポケットに手を突っ込んだ。小さな紙がくしゃくしゃと丸まった音が聞こえる。
「・・・けっきょく、渡せねーのかよ。・・・・くそ」
「何をですか?沖田さん」
「えっと・・・。本郷君?」
「覚えてくれていたんですね!ありがとうございます!あの、それで何を渡せなかったんです?」
「あぁ・・・・。それは」
俺は、何を言おうとしたんだ?
この、恋敵でもある本郷尚に。
何から何まで嫌になる事ばかりだ。