原作沖(→←)神/甘酸っぱい/ほのぼの


















「もうちょっと…、もうちょっとアル!」

精一杯手を伸ばす神楽の横で、沖田は胡坐をかきながらその姿を眺めていた。非番の今日、何故こんな奴と屯所の縁側でたわむらなければならないのか。まぁ、良い暇つぶしにはなるのかもしれないが…。

「もう!届かないアル!!やーめた!止めアル…」

「…寂しなら寂しいって言えばいいんでィ。旦那達に仕事置いて行かれて寂しいんだろィ」

「ふん。どうでも良いアルあんなマダオたちなんか」

「意地っ張り」

眉間に皺を寄せて、神楽は沖田を見た。物凄い不機嫌な顔なのは初対面の誰が見ても分かる風な面だった。何も言わない神楽に沖田は小さく溜め息を吐いて、ちょっと待ってろ。そう言うと腰をあげて山崎が居るであろう客間の方へ向かう。

しばらくして沖田は神楽の待つ縁側へ戻った。膝を抱え込むようにすわる神楽の横に腰をおろして二人の間に先程山崎から貰った菓子をお茶と一緒に置いた。物音に気付いた神楽が顔をあげると、正面を向いた沖田が目を細めて庭の木を見つめていた。

「食うか?」

「……いいアルか?」

神楽の予想外の反応に、沖田は目を見開いた。太陽の光が瞳を刺激したが、それよりも隣の悪友とも言うべき神楽がいつにも無く、しおらしい態度であるため調子がくるってしまったのだ。

「…何アルカ。その驚いた顔は」

「驚いた顔をしてたのか、俺は」

「してるアル。そんなに今の私が珍しいネ?」

「珍しいっちゃあ珍しいが…。まぁ、食いな。ザキに頼んで貰ったんだから残すなよ」

子皿の上にあった手のひらサイズの饅頭を、沖田は神楽に進めた。唇をとがらせながら、神楽はその饅頭を手に取り小さく一かじりした。

「はぁ。お前、今日は此処で飯食ってくかィ?どうせ旦那たち遅いんだろ?」

「良いアル。……万事屋の留守任されてるネ。このお饅頭食べたら帰るアル」

「らしくねえな。……ま、それまでゆっくりしときゃいいじゃねーか」

「……お前、今日おかしいアルな」

「何がでィ」

「……優しいって言うか、なんて言うか」

「はっ、俺ァいつも優しいぜ?」

「ほざけヨ」

苦笑いした神楽が、沖田を視線に入れる。普段表情を見せないとか、そんな事を土方が言っていた事を神楽は思い出した。

「嘘アルな…」

優しい笑みが零れていることに気づいているのは多分、沖田ぐらいなのだろう。ふわりと笑った神楽に、心臓がトクンと脈打ったのを沖田は感じた。これは、所謂ときめきというものなのだろうか。一人で考える沖田に、神楽は噴出した。

「ほら、やっぱり嘘アル」

「何が嘘なんでィ」

「…前に、トッシーが言ってたアル。『総悟は表情を表に出さねえ』って」

土方を真似た神楽の言葉に、沖田は面を食らった。いつ、土方と話していたんだ、と。

「それの何処が嘘なんでさァ」

「今、自分の顔鏡で見てみるヨロシ。すっごく面白い顔してるネ」

「………ふ、ふーん」

「他に言う事ないのかヨ」

笑いが止まらない神楽に、沖田は一息つくと神楽の頭をワシャワシャと激しく撫ぜた。いきなりの事についていけないのか、神楽は耳まで真っ赤に染めて沖田を見る。その表情は今まで見た事がないような緩んだ表情で、そんな表情をする沖田に体中の血液が顔に集まったような熱さを覚えた。

いつまでも撫ぜていた沖田の手が頭から離れると、なんだか名残惜しい。そんな自分を変だと思いつつ、残りの饅頭を頬張った。

「……あーあ。久しぶりこんな笑った。最近仕事詰めで大した休みも取れてなかったもんでねィ。今日が非番でやっと休み取れたからダラダラしようと思ってたけど…」

沖田はそこまで言うと、神楽の頬についた饅頭の餡子を親指で拭い、それを自らの口の中へと入れた。まるでドラマのワンシーンのような光景に、ピクンと神楽の体が揺れる。沖田はそんな神楽に微笑んで言った。

「チャイナが来てくれてよかった。すっげえ、楽しい」

無邪気な、年上とは感じさせない沖田の悪餓鬼のような笑顔に、神楽自身が沖田に惹かれて行くのを微かにだが感じた。沖田が、楽しいと。自分が来てくれて嬉しかったと。言ってくれたことに、心から喜びを感じた。

さっきまでの寂しさは何処へやら。神楽はなんだか体がぽかぽかとして、沖田の側にいる事が心地よくなった気がしたのだった。もう、このまま沖田と一緒にいられたらいいと思うほどまでに。

「…私も…、沖田と一緒にいるとぽかぽかして心地いいアル……」

少しくらい恥ずかしい事でも、今なら言える気がする。そう神楽は思った。神楽の言葉に沖田は右手を口元へやり、神楽から顔をそらすように反対方向をむく。

「……俺、も…」

「ねえ、沖田」

庭の木の枝に蝉が止まっている。もう、夏だ。

「…また、ここに来て良いアルか?」

「…チャイナが来たい時に、いつでも……」

「うん!!!」


部屋の壁にある振り子時計が、小さくゴーンゴーンと3時を知らせた。





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