原作沖(→)+神→銀 










時代があって、時の流れがあって、そして時がある。

流行も巡り巡って、また巡る。時がそうしているのならば、もしもその時が止まったら一体この世界はどうなるのだろうか。

まるで、何かにとり付かれたように淡々と話す神楽を、沖田はどこか冷めた目つきで見ていた。

「私はもしかしたら、生まれてこなかったんじゃないかって。いつどこで止まるか分からない時代を生まれてこれたのは奇跡かもしれないアル」

「生まれてこれたから奇跡とか、そういうのじゃねえだろィ」

沖田の言葉に、神楽は一瞬驚いた顔をしたが「だったら、なんなんだ」と言いたげな不満な表情になった。

コロコロと変化する彼女のことを、沖田は少なからず恋愛的視野でみている。確実に好きとまではいかないが、こいつもあり得る範囲内ということだ。

「不満ありありの顔だな」

「だったら、お前が考える奇跡ってのを教えろヨ」

ぷくぅーと膨れる神楽の頬を笑いをこらえながら眺めた。そんな沖田に、神楽のイライラは段々と募っていく。

「そうだねィ、奇跡ってのは覆るはずのないことが覆ること。つまり、そうだなァ…」

「もったいぶんなよナ」

「俺らが犬猿の仲だということはわかってるよな。そんな俺らが恋仲になるってことじゃねえか。ほら、奇跡だろィ?お前は俺が嫌い、俺もお前が嫌い。そんな二人が恋仲になったら奇跡だろ」

その答えに、神楽は一瞬『ハテナ』を頭上に浮かべた。が、すぐに理解したのか『なるほど』というとまるで興味がなかったかのように無言になった。

いっときの間、無言でいた二人だったがようやくその時は終わった。

「…もしお前が言ったことがそう意味だったとして―――…」



銀ちゃんと私は、どうなるんだろうネ。



今までに見たことがない神楽の様子に、沖田はハッとした。そして、そういうことか。と、どこか客観的に見る自分がいた。

「じょ、冗談アル!銀ちゃんはもう、」

「今のは!!!」

突然の沖田の声に、神楽は一瞬ビクリと体を強張らせた。

「…今のは、聞かなかったことにしてやる」

「お前も、私を笑うアルか?」

「は?何言ってんだよテメーは」

「叶うわけない、こんな思いなら…。こんな思いするなら…私生まれてこなきゃ良かった」

神楽の作った小さなこぶしが、プルプルと震えているのを沖田は知っていた。そして、銀時にもう心に思っている女(ヒト)がいると言うことも。彼女は、いつから気付いていたんだろう。

彼女はずっと、一人だったのだろうか。

神楽と沖田が、どこか重なって見えた。沖田が持っているものと同じものを、神楽は持っている。そして、沖田自身なにか心の底からふつふつと沸きあがる『何か』に違和感を感じていた。

神楽の投げた小石が、土手の下にある大きな石に中(アタ)ってそのまま川へ落ちていく。まるでスローモーションのようだ。




彼女が銀ちゃん銀ちゃんという度に、自身の中から腸煮えくり返るほどの何かを感じていたが、まさか……。

恋愛対象『範囲内』だった神楽は、沖田の知らぬ間に、いつのまにか恋愛対象になっていたのかもしれない。認めることができない。

認めたくないわけじゃない。しかし、認めたとしてそこからどうするのだろう。この悲しみを、神楽の様に背負わなくてはいけない。彼女も沖田も、同じ境遇の中で決して交わることのない思いを抱かなければならないのだ。

「チャイナ、テメエさっき『時が止まったらどうなるんだろう』って言ってたよな」

「それがどうしたアルか」

そんな思いをするのは、沖田は御免だった。目に見えて叶わないものだったら諦めはつく。そんな面倒くさい『恋』にわざわざ時間を使わなくてもいい。

「回すんでィ。誰かが、時間を」

「回す?」

「巡り巡ったら、もしかしたら交わるかもしれねえだろ?」

「言ってる意味がよくわからないアル」

「チンチクリンチャイナが、大人の女になったらわかることでィ」

神楽の頭をくしゃくしゃに撫でて立ち上がった。いまだにわけがわからないといったような顔をする神楽を背に、今から自身が没頭するであろう恋路に小さく笑った。

「俺は脈のない恋はしねえんだよ、クソチャイナ」

撫でたときに見せた神楽のあの表情を忘れぬよう、沖田は目を閉じた。





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