現代、高校生→夫婦















久しぶりに見た彼女の表情はとても明るかった。小中学と一緒だった彼女とは良い喧嘩相手で、俺も彼女の事を気に入っていたし彼女も彼女なりに俺を気に入っていたと思う。

彼女は成績は優秀な方にいたために、高校は別の所に通うことになってしまったのだが、道で出会えば必ず『おはよう』や、『またな』なんてあいさつくらいは交わしていた。

携帯のアドレスだって持っていたし、彼女への連絡手段は持っていた。

ただ、やはり時間が経つにつれてそのあいさつも、メールも電話も彼女への連絡手段はあるものの使わなくなってしまったのだ。

正直に言うと俺は、彼女に対して良い喧嘩相手以上の感情を持っていた。もしかしたら彼女は俺の一生を共に過ごす相手なのかもしれない。

幼いながらに一生懸命考えて、知恵熱が出るのではないかというほど考えた。

「・・・あ。チャイ・・・・・」

チャイナ。俺が付けた彼女の愛称。

最後までその愛称を言う前に、彼女は俺に見向きもせずに他の男の腕に、彼女の腕をからめた。

あぁ、そうか。今までと同じだと思っていたのは俺だけだったのかもしれない。昔の彼女は恋愛とか色物を好んでいなかった。けれど、やはり人間は変わるものなのだ。

彼女は俺の知らぬ間に恋というものを覚えて、恋をして、そして愛を知ったのだ。

彼女に向けて掲げた右手をゆっくりと体側に付けた。どうしてかは分からないが、自分が嫌に汗をかいているのが分る。握り拳がジワリと熱を持った。

彼女は今恋をしている。彼女の隣にいる男に、俺ではない男に恋をしているのだ。

カッコ悪いとは思いながらも、それでも嫉妬をしてしまう。彼女が幸せならそれでいいなんて、そんな綺麗事を俺は思う事が出来ない。

ドラマのように綺麗に自己解決することなんて、ガキの俺にはまだ不可能だ。早く別れてしまえ。そして、俺の所に来い。

黒くドロドロした感情が血液と一緒に心臓から全身を駆け巡る思いだった。

それから彼女が彼氏と別れたと知った時は心の底から嬉しさがこみあげてきた。メールをして、なんとか昔のように楽しい日々を送っていた。

彼女から電話が来る日も大きく増えて、二人で街に遊びに行ったりもした。高校が違っても、それでも彼女とは会えるし、話もできる。

彼女から想いを告げられた日は、夜も眠れなかった。






「総悟は、昔っからどSだったもんネ」

笑いながら俺に寄り沿う彼女は、小さくて愛らしい。これは中学の頃から変わらない彼女のチャームポイントだ。二人で一緒に笑って、怒って喧嘩して。先生に怒られた日も多くあった。

「あ、これって小学生の時総悟が私のお弁当ひっくり返した時の写真アル」

「ほんとだ。お前、タコ様ウィンナーがどうとか言ってたなァ」

小学生の時のアルバムを1ページづつ捲(メク)っていく。彼女は今も昔も笑顔が絶えない。彼女から笑顔がなくなる日は、まるで一生ないような気がする程。彼女と居ると、俺も自然と笑みがこぼれてしまう。

「今でもタコ様は一番アル。だって美味しいもん」

「ふつーに焼いて食えば良いじゃねーか」

「だめヨ。ニンジンだって、食べれない子にはニンジンケーキとか作ってあげるでしょ?・・・この子には、食べる時もどんな時も喜びと驚きを知ってほしいアル」

愛おしげに大きくなった腹を撫でる彼女。高校を卒業してすぐに俺との子どもを身籠ったのだ。

「好き嫌いのないように育てたいんだろィ?心配しなくても俺とオメーの子だぜィ?とくにお前の血を引いてたら嫌でも好き嫌いなんてないだろィ」

「むぅ。それが愛する奥さんに向かって言う言葉アルか」

唇を尖らせて拗ねる彼女。拗ねている顔も可愛いと思ってしまうのは、相当彼女に惚れこんでいるからか・・・。少なくとも、俺の彼女へ対する愛情は1日やそこらでは消えない自信はある。

小学生からずっと片思いをしてやっとここまで来たのだから、そう簡単に消えてもらっては冗談でも笑えない。

「明日ね、パピーがマミーを連れてここに来るらしいヨ?」

「義父(おとう)さんが、義母(おかあ)さんを?どうしてまた?まだ出産には日があるのに・・・」

「総悟に先を越されたくないみたいアルよ?生まれた孫の顔を一番に見たいんだって。最初に見るのは私なのにネ」

薄っすらと微笑む彼女は、もう母親そのものだった。それは、昔俺が見た彼女の隣にいた男には到底分るまい母の顔。それだけで優越感を覚えてしまう。

「総悟、今絶対優越感に浸ってるアルな。しかも、私の元彼を思い出して・・・。正解?」

「・・・正解」

「もう気にしなくていいのにネぇ?」

あなたは根に持つ男の子に育っちゃ駄目ですヨー。なんて言いながら腹の子に向かって話しかける彼女。例えもう終わった関係だとしても、思いだしただけで妬いてしまう。

「それくらい好きだって事でさァ」

「ふーん。私は愛してるけどネ」

たまに、彼女は大人になる。本当にたまになのだけれど、その時はどうしても俺は彼女に負けてしまうのだ。

「あ、そうだ」

急に立ちあがった彼女は、近くにあった電話を持ってきて誰かに電話をかけ始めた。大方、中学の時に世話になった坂田銀八にでも掛けているのだろう。彼女にとって銀八は彼女の二人目の父親に近い存在といえる。

俺だって銀八の事は信用しているし、銀八にはすでに奥さんもいるので全くとは言えないが安心している。それに、彼女の事で悩んでいた時に相談に乗ってもらったりもしたのだ。

彼女との結婚や、妊娠を報告した時の銀八の表情はカメラで納めておきたいほどに涙でぐちゃぐちゃに歪んでいた。

「銀ちゃんも明日来るって。なんでも、総悟にお話ししたい事があるらしいネ」

「あー。なんか前にもそんな事言ってたような気がしまさァ」

「明日はきっと騒がしいアルな。この子が吃驚(ビックリ)して産まれて来ちゃうかもしれないアル」

「そうかもしんねぇーな。早く産まれてこねえかなァ」

「でも、もうそろそろでしょ?名前は、総悟が決めてネ?私は二人目に決めるって決めてるから」

「了解」

後日、彼女の両親から大量に届いた育児用品や、銀八から貰った幼児服が家を埋め尽くした事は言うまでもないだろう。

この子はこんなにも皆に愛されて、そして産まれてくるんだ。

長い月日をかけて俺と彼女は結ばれた。きっとこの子にも、この人だと思える女性がきっと現れる。彼女を想い続けてやっと結ばれた時の嬉しさ。恋をすることの辛さ、悲しさ、喜び。

何があっても人を愛することを止めないでほしい。

俺と彼女のように今も昔も変わらずに、ずっとその時の中の者であり続ける事が出来るように。

「「あ、動いた!」」

同じ時を刻み、その時の中で一生二人寄り添って生きて行ければそれでいいのだ。





時計屋敷の住人






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