企画サイト『回帰衛星』様に提出する作品です。

















小さな頃から仲良しだって有名だった。近所のおばさんたちや、学校の先生。お互いの親からもそう思われていたし、なにより自分たちもそう思っていたのだから。

しかし、それが崩れたのは小学校6年生の3学期くらい。

いつもなら総悟と一緒に帰っていたのに、総悟は私の知らない男の子と帰っていて、私は一人だけぽつんと帰って行った。

中学生になっても、それは変わらなかった。いつしか、仲が良いから仲の悪い事で有名になった。家も隣だし、一緒に学校行ったり帰ったりするのがとても楽しみだったのに、その楽しみを一気に取られて、胸にポッカリ穴があいたようだった。

ある日の朝。総悟は部活があるから朝早くに家を出たらしい。そうミツバから聞いて小さく溜め息が出た。昔から分かっていた事だが、総悟は私を必要以上に避けている。部屋もある意味お隣同士なのに、窓をコンコンとノックをしても反応すら見せてくれない。

「ごめんなさいね、神楽ちゃん。総ちゃんったら、お弁当を忘れてしまったの」

困ったように笑うミツバさん。たぶん、これはミツバさんなりの気遣いなんだろう。私は、こんなにも総悟と一緒にいたいのに。

「いいですヨ。剣道部アルな。任せるヨロシ。しっかりお届けいたしますヨ!」

「ありがとう。あの、神楽ちゃん?」

「何アルか?」

「総ちゃんの事、嫌いになっちゃった?なんだか、小学生の頃にね、初めて神楽ちゃんとはもう遊ばないって。そう言ったの。もしかしたら、喧嘩でもしちゃったのかしらって思っちゃって…」

「何でもないネ。でも、やっぱりちょっぴ悲しいアル」

「総ちゃんも、本当は神楽ちゃんの事大好きなの。分かってあげてちょうだいね?」

それじゃあ。そう言って出ていったミツバさん。ミツバさんの言葉に、気持ちが軽くなった。

「よし、学校行ってくるアル!!」





剣道部はたしか、もう朝練も終わって部室にいるはずだ。剣道部のマネージャーをしているジミーな山崎(とか言う同じクラスの奴)がそう言ってた(気がする)。

「総悟?」

部室には誰もいなかった。おかしいな?なんて思っていたら、いきなり肩に手を置かれて体がビクンとびくつく。

振り返ってみてみれば、お目当ての人物がそこには居た。

「あ、総悟…」

「…なんでテメーが居るんでィ」

横をスッと通り過ぎていく総悟に、鼻の奥がツンとした。泣きたいくらい悲しかった。どうして私には冷たいの?

なんて言えるはずもなく、両手に持っていたお弁当を総悟に手渡した。

「はい、これミツバさんから。今日、お弁当忘れたって聞いて………」

「なんでィ。それだけかよ。それだけのためにここに来たのかィ」

朝練は外のランニングだけなのか、総悟は体操服の上を脱ぎ始める。なんだか、私って本当は総悟に嫌われているのかもしれない。

「だったら帰れ。弁当はそこに置いてていいから。俺、お前ともう話さないって決めてるし」

「ど…、どうしてそんな事言うアルか!!」

つい大きな声になってしまった。でも、どうしても悲しくなったんだ。どうしても悲しくて、また総悟と一緒に帰りたくて、今まで溜めてきた涙が滝のようにボロボロと零れ落ちた。

「え、…おい、かぐ…」

「わ、私!ずっと一人で帰ってて、…髪の色もこんなだし、目の色だって不気味に思われて、小学校の時の友達は総悟しかいなかったのに…なのに、たった一人の大切な人まで離れて行っちゃって、寂しくて…。中学校も、今もそうアル!!家だって隣なのに、総悟なんにも話してくれないし、ずっと……好きだったのに………っ!!」

大きな力で引っ張られた。不意な出来事に、体のバランスは保てず、前のめりになってしまう。しかも、目の前には総悟の上半身。こ、これは……。

抱きしめ、られてる?

私が、総悟に?

「…バカみてーじゃねーかィ。今まで、一生懸命諦めようと思って、突っ放してきたってぇーのに…」

「総…悟?どうしたアルか…?」

「好きだったに決まってんだろィ。でも、なんか恥ずかしくて、小学校の時に日直だったころ、黒板のとこに相合傘が書いてあったんでィ。神楽に見られるのが嫌で、恥ずかしくて、みんなに分からせるために突き放したんでさァ。……最初は少しだけのつもりだったけど、時間が経つにつれて言いにくくなって。結局そのまま中学高校になっちまったんでィ」

首筋に顔を埋められて、口が金魚のようにパクパクと開閉している。顔も真っ赤だろうし、本当に金魚という単語はぴったりだと思う。

「ずっと、小さい頃から好きだった。今でも神楽が他の男に呼び出されると、片っ端から殴りに行ってた」

「…だから、最近告白される回数が減ったアルか?」

「そう言う事でィ」

さっきまでの総悟の態度が嘘のように甘えたような声で呟く総悟。いままで無視してきた分を埋めるかのようだった。

「好き。神楽が好きだ。いままで無視して来てすまねえ」

「…うん。でもよかったヨ!総悟に嫌われてなくって」

「俺も。あんなに酷い事したのに、今も神楽が俺の事を好きで居てくれてよかった」

「心配したんだからナ!一緒に学校も行ってくれないし、もしかしたら総悟他に好きな子で来て、私の事が邪魔になったんじゃないかなって…」

体を離してやっと気付いた。総悟は上半身裸だ。知らない間に無駄に付き過ぎない筋肉が良い具合に付いている。いつの間にか男に成長していた総悟に、頬が赤くなるのを感じた。

「なーに顔赤くしてるんでィ。あ、まさか俺の裸みて興奮した?」

「ちょ…調子のんナ!さっきまで冷たかった奴とは全く別人アル!!」

「本当はずっとこうしたかったんでィ。悪いかよ、アホ。だいたい、お前夜くらいカーテン閉めろよ。しかも、寝てる時は下着にキャミだし、どう見ても誘ってただろうが」

「の、覗いてたアルか!!!」

「覗いてねーよ。ただちょっと興味を持っただけでさァ」

「それを覗きっていうアル!!」

「好きな女だったのなら、見たくなるのも当然だろィ」

開き直って制服を着始めた総悟。こんなにドキドキしたのは初めてだ。ずっと、求めてきた人が今ここにいる事がこんなにも心臓をおかしくするなんて。

「小学生の時、神楽が隣にいない禁断症状で家の窓を割った事があったんでィ。学校では友達と喧嘩ばっかで、先生にも怒られたし、そんな俺を神楽はきっと嫌いになったんじゃないかって思って」

「…ただの自己満足的ななにかアルな。私はそんな事一度も思ったこと無かったヨ…」

「すまねえ…。でも、今日からは恋人同士でさァ。なんでも好きな事出来るし。想いが通じ合ったんだぜィ?今まで我慢してきた分、存分にぶちまけてやらァ」

「何をぶちまけるつもりアルかァァァァア!!」

「なにって…。恥ずかしいのに言わせるつもりかよ」

「……もうそろそろ、授業始まっちゃうヨ。さっさと行くアル!じゃーナ!!!」

本当は何の羞恥もないくせに、総悟は昔から意地悪だった。幼稚園の時も、団子虫を私の服の中に入れたり、一緒にお風呂に入った時も私の、……その、将来豊満になるであろう乳をドンドンと押して(本当は揉んだらしい。)きたり。

あ。そう言えば、小学一年生の頃一緒にプールに行った時は、目を洗っていたらいきなり後ろから押されて思いっきり眼球強打未遂だった気がする。

あれ?私って、総悟に意地悪ばっかりされてる気がする。これって、本当に総悟の事好きなのかな。あれ?


部室を出てから教室に入った。

総悟とは一緒のクラス。昨日はたしかずっと居眠りをしてたっけな。お昼は一人でご飯を食べてた気がする。総悟って、何気に一人で居る時が多いんだ。

あれ、私って、すごく総悟のこと見てる。

なんだ、やっぱりちゃんと好きだったんだ。




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END





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