高校生×社会人









家に帰ると学校の制服を身に纏った…。いや、正確に言えば下半身にだけ身に纏った高校生の幼馴染がいた。

まぁ、これはいつもの事だ。

「あ、神楽おかえりなせェ!」

「ただいまヨー」

決して同居をしているんじゃない。私の住んでるマンションの隣の部屋がたまたまコイツだっただけだ。かれこれ十数年。そしてこいつのお姉ちゃんが結婚をして相手の家の越してしまい、お互い一人暮らしになってしまっているだけ。

総悟がご飯を作れないというから仕方なく一緒にご飯を食べたりはしているが、ただそれだけの事だ。

昔はよく笑顔で私に抱きついたりして来たのだが、流石にお年頃なのだろうか。笑顔は見せるものの、近寄ってきたりする事は無くなった。

それが少し寂しいなんて思ってたりする。

「今日の晩御飯、何が良いアルか?」

「スパゲティ!!」

「はいはい。総悟、昔から好きだったもんネ。材料足りないから、具が少ないと思うけど良い?」

「うん。神楽が作るのだったら、何でもおいしいから別に大丈夫でさァ」

「分かったアル。課題は終わった?作ってる間に終わらせるヨロシ」

「へーい」

総悟は私の言う事も良く聞くし、とっても聞き分けの良い子だと思う。なんだか、弟が出来たみたいなそんな感じ。昔から一緒にお風呂とか入ってたから、別に上半身が裸だったからって何にも思わないけど…。

でもやっぱり少しは考えてほしいよね。

「総悟、このシャツ洗ったほうが良いアルか?ここにシミついてるヨ」

「あ、本当だ。いつ付けたんだろ…?」

「昔から変わらないアルなぁ、子供っぽいところとか。本当、弟みたいアル」

笑って総悟をみたら、さっきとは違う表情だった。ちょっとびっくり。だって、こんな総悟の表情は今までに一度も見た事がない。

「…神楽は、俺の姉ちゃんじゃねーよ」

「分かってるアル。冗談に決まってるダロ?弟みたいって言ったのヨ」

苦笑いをして見せる。総悟は拗ねているのか、そっぽを向いてこっちを見ようとはしなかった。

スパゲティを作り終えて、テーブルに皿を置くと総悟は目を輝かせてスパゲティを頬張った。私はそれを見て嬉しくなる。

なんだか、昔に戻ったみたいだ。

それからは他愛のない会話をして、食器を洗って終わった。総悟は今日、家に止まっていくそうだ。なんでも、布団にダニがいるとかなんとか…。

「お風呂は自分家で入るアルよ?」

「ヤダ。ここで入る」

ヤダ?駄々っ子かよ!!いや、少し可愛いけど…。

「神楽も、一緒に入ろう?昔みたいにさ」

「な!もうお前高校生ダロ?彼女も出来るお年頃なんじゃないアルか?!」

「彼女いないし…。…昔はよく一緒に入ってくれたのに…。……だめ?」

うぅ…。私は総悟のこの目に弱い。子犬のような、小動物のような…。

「で、でもでも!ほら、総悟だって恥ずかしいでしょ?」

焦りからどもってしまう。だって中学生になってからはそんな事一度も言わなかったのに!しかも、さっきより密着してる!!

「……神楽、俺の事嫌いなのかィ?」

「き、嫌いじゃないけど……」

まともに総悟の顔を見れない。どうしたんだ私!心臓がバクバクいって爆発しそうだ!静まれ!静まれ私の心臓!!!

ギュウッと総悟に右手を掴まれた。そこがだんだんと熱を持っていくのが分かる。あれ、総悟って、こんなに手大きかったっけ?

言われてみれば、総悟は身長も高くなって、私の身長なんか裕に越していた。肩幅も広くなったし、華奢だと思っていた腕もがっしりとして大人の男になっている。

「…俺、神楽が思ってるほどガキじゃねーよ?……俺は神楽の弟じゃねーし、神楽は俺の姉ちゃんでもない。…俺は、男で。…神楽は女。そうだろィ?」

スーッと持ってこられた総悟の手が、私の頬を包んだ。なんだ…これ…。息が、苦しい…。

キス…されてるの?総悟に…。

「俺、ずっと前から神楽をこういう対象にしか見てなかった」

「ぇ…な……総悟?」

「………彼女作らなかったのも、いつも神楽のトコにいたのも、全部神楽が好きだったからで…。その……ずっとこうしたかったんでィ」

首筋に埋められた総悟の、さらさらとした亜麻色の髪が頬をかすめた。いつからかしみ込んだのか、総悟からは私のいつも使っている柔軟剤の爽やかな匂いがした。

急に恥ずかしくなって、一人で百面相をしていたら、総悟が顔をあげて私を見たので目をそらせなくなって、下を向いた。

だって、すっごくカッコよく見えた。ずっと、幼馴染で、弟のように可愛がってきた総悟が、今日一日でまったく違うように見えたから。

今まで一緒だったのに、一緒だったから気付かなかった事に今さら気付いたから。

私は女で、総悟は男。

きつく、私を抱きしめている総悟の背中に、そっと自分の腕をまわした。

何かのアニメの曲にあった気がする。まさに、思考回路はショート寸前だ。総悟の体温が、服越しに感じる。心臓の音、聞こえちゃうかも。

今度こそしっかり目を合わせた。

嬉しそうに、無邪気に笑う総悟は、やっぱり小さな頃からなんにも変らなかった。





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Title:Liz.

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