激しく波打つ心臓に、何の迷いもなく銃弾を撃ち込んだ。
これで、全てが元通り。
この人間は、きっと地獄に落ちる。
ドクドク流れる血液を見ながら、ショック死でもしたのだろうか。動かなくなった体を、部下に処理するように命じた。
血液で描いたような、真っ赤なルージュを舌で舐め取った。
あぁ、もうすぐ、学校に行かなければ。
「おはよー!神楽ちゃん、今日の国語、確か一緒だったよね!」
「そうアルなー」
笑いながら校舎を歩く。隣に居る友達は、今年私と同じクラスになった子だ。人工的な金髪をチョココロネのように巻いた髪は、誰もが見ても美しい。
「あれ?神楽ちゃん。怪我したの?ここ、血がついてるよ?」
不覚。こんなバカ娘に見つかった。
「う…うん。さっきそこでかすっちゃって。でも大丈夫アル!」
「ふーん。じゃ、行こうよ!352の教室だよ!」
ここの学校は頭が良い。
けれど、私からしてみればこんな学校の授業なんて小学生レベルでしかない。
ピロロロロロ…ピロロロロロ
「あ、ごめんアル」
「いいよ。電話でしょう?」
「うん。さき、行ってて欲しいネ」
「わかったぁー」
「……もしもし?今学校だから電話はかけないでって、いつも言っているでしょう?そんな事も聞けないのかしら。だから、昨日殺した奴らはそっちで処分してって言ってるじゃないの。まぁ、いいわ。…今から?えぇ。………わかったわ。それじゃあ……っ、ちょっと待ってて。一旦掛け直すわ」
聞き耳を立てている輩がどこかに居る。気配を殺し切れてもいない、狐が。
「分ってるんだから、さっさと出てきちゃえばいいのに」
こんな場所では、極力使わないようにしてきた標準語。でも、きっとばれてるんだから、もう隠す必要なんてない。
ガサガサと木の葉が鳴った。
木の上から、何かが下りてくる。
「ふーん。アンタって、実は冷たい女なのな」
「………お、おき」
「で、どんな話してやがったんでィ?昨日、殺した?何を?」
「聞いてたなら、別に私が言う必要なんてないわ。彼方がきいた通りよ」
「神楽、アンタは一体何者なんでィ」
あぁ、もう。面倒くさい。
こんな制服も、鞄も、教材も。
みんなみんな、面倒くさい。
鞄に入ってあった服を取り出して、制服を脱いだ。
いつも学校ではめている髪飾りは直して、普段付けている派手な髪飾りを飾る。
真っ赤なルージュを、弧を描くように唇に引いた。
「…やっぱり学校なんて詰まらない。よっぽど、マフィアのお仕事をしている方が楽しいわ」
「マ…フィア……?」
「そう。マフィア。私がボスをしているの」
「昨日殺したっていうのも…人間だったりするのかィ?」
「えぇ。だって、人間しかいないでしょう?私を殺そうとするから、私が直々に殺してあげたの。正当防衛だわ。私に非はない」
「………学校には?」
「単なる暇つぶしよ。あら、そうだわ。ここまで聞いちゃったんだもの。彼方の始末をつけないと」
「は?…何だよ、それ…」
「見た事ない?拳銃よ。よく、ドラマとかで見ているでしょう?」
「…殺す、のか?」
「そうなのよね。殺すか、…それとも」
溜め息を吐いて、誰も居ないかを確認する。
「ねぇ、沖田。死にたいアルカ?それとも、生きたい?生きたいなら、それなりの代償を払ってもらうアル」
有無を言わせぬ目つきで、静かに見つめた。今にも倒れそうな沖田は、いつも私と喧嘩をしている人物には到底見えない。
「…生き、たい」
「そう。分かった。…………金ちゃーん!」
「おー、沖田君。…なに?神楽、呼んだ?ていうか、俺の事は銀さんって呼んで」
金ちゃん。そう呼んで私たちの目の前に現れたのは、この学校に教師として働いている私の部下だ。かつ、担任。
「金ちゃん、沖田を部下に迎えましょう。指導は金ちゃんと晋介でお願いネ。銃の使い方はまた子が教えてくれるはずアル」
「え、マジで?…まぁ、ボスが言うことなら…」
さくさくと話しを進める私達に、沖田はついていけない様子だ。
まぁ、いい。そのうち慣れてくれるだろう。
「今日は、楽しい夜になりそうネ」
「人、殺っちゃうんだけどね」
とても、とても楽しい夜に。
昼の顔と夜の顔