ゆいさんリク。現代デート編です。
朝から雨が降っている事にも、スズメが獲物をとらえるために低空飛行をしている事も、正直どうでも良かったあまりよろしくはない天気。
それが今では、とても退屈で憂鬱な日になるなんて思ってもみなかった。
「…総悟。どっか遊び行きたいアル」
「嫌でィ。なんでこんな雨の中外に行かなくちゃいけないんでさァ。どう考えても自殺行為だろィ」
「むぅ。私は外でデートしたいアル」
「いいじゃねーかィ。お家デート。ほら、ギンタマン読みたいって言ってたじゃん。ちょーど良いところにホレ、ギンタマン全巻」
「嫌アル。つまらないアル」
「オメーはガキか、おい。雨ん中じゃ公園に行こうにも濡れるだろうが」
「総悟車持ってるアル」
「……………はぁ」
総悟は、頭をくしゃくしゃと掻くと、一つ溜め息をついた。
「じゃあドライブにでも行くかィ?」
「行くアル!行くアル!!」
「車で待ってるから、着替えて来なせェ。5分で来いよ」
「イエス!マム!!!」
「俺はテメーの母親じゃねーだろィ」
いいからさっさと用意しろ。なんて言う総悟を一蹴りして、スキップしながら部屋着から着替えた。
「あ!どこに行くアルカ?!」
「あー…気分」
「使えねーアルな。行くとこないなら、駅前の喫茶店は?あそこにカップル限定の特別スイーツがあるアル!」
「てかお前、ぜってーそれ目当てだっただろィ」
「ドライブがてらにちょうど良いネ。…そうだ。今日はワンピースにしよう」
スイーツが目的で、今日総悟の家に来たとかそんな事断じてない。いくら私が彼氏<スイーツであっても、彼氏より甘いものが好きであっても!!
「つか、聞こえてるし。てかそれ、完全にデートしたいからじゃねーよなァ。やっぱスイーツ目的かよ」
「男に二言はねーアル。これは女にも言える事ネ!!黙って駅前の喫茶店に連れていくヨロシ」
「ったく。もうこれからずっとお家デート決定でさァ。絶対車出してやんねーからな」
「準備も出来たし、さ!行くアルぅー!!」
「ってなわけで、まぁ喫茶店についたのはいいけど…。お前さ、ちゃんと内容読んだのかィ?」
「読んだアルヨー。カップル限定スイーツ5500円!」
「…で、この金は誰が出すんでィ」
「それは、愛しの総悟が出すアル」
「調子良い時だけ彼氏よばわりかよ。……あ。やっぱ、お前ちゃんと内容見てねーだろィ」
してやったり。そんな表情で総悟は私を見る。
……まさか。そんな不吉な予感が能裏を過った。まさか。そんなはずないアル。私はしっかりと広告の内容を読んだネ。
「ほれ、ココ。小さくて読みにくいけど、確かに書いてるぜィ。『本当にカップルか検証するために、その場でディープをお願いします!』って。ディープだって。やばくね?お前まだキスもまともにできねーじゃねーかィ」
「う、嘘アル!!そんな事、私は断じて許しません!!!」
「許しませんって言われてもねィ。キスすらまともにできない神楽ちゃんとディープな方出来るってんだったら、別に5500円なんて安いもんでさァ」
「嫌アルぅー!!おまわりさーん!ここに変態が居ますヨ!」
「未来のお巡りさんならここにいまさァ。どこに変態だって?」
「ヘルス!!ヘルスミー!!!」
首根っこを掴まれるように、店内へ足を入れる総悟。表情はいままで一緒に居てきた中で一番輝いてる……気がする。
「いやー、まさかこんな所で神楽とキスできるなんて」
「…うっさいアル。ちくしょー!スイーツのためアル神楽!大人になれ!!!」
「そう言うとこがガキって言うんだヨ?」
「私のマネするナ!!」
「はいはい。あ、おねーさーん。こいつにカップル限定のスイーツくだせェ」
「ま、まままままま待って!!待つアルー!!」
「なんでィ」
「ま、まだ…心の準備が…」
『お待たせしました。カップル限定をお頼みですか?もしそうなら、証拠としてお二人の熱いキッスをお願いします』
ニコりと笑い、私のためにスイーツを持って来てくれるはずのウエイトレスさんが、今では天使の皮を被った悪魔のように見える。
「や、やっぱり今日は出直し…「神楽ァ」
冷や汗がじんわりと背中を伝っている…ような気がする。危ない。これは危ない。
「『男に二言はねーアル。これは女にも言える事ネ!!』なんて威張って言ってたのは、どこのどいつか。…ちゃーんと、分ってんだろうなァ?」
「ちくしょー!!キスでもディープでもそれ以上でもいくらでもやってやるアルー!!!!!!」
「マジでか!!!………じゃあ家に帰ったらさっそくヤらねーとなァ」
最後の方は小声で聞こえなかったからとりあえず無視。私の未来がどんなに蝕まれていようとも、きっと、この男には関係のない事なのだから。………たぶん。
「パ…パ…パリス!!パリスミーィィィィイ!!!!」
「ヘルプミーな」
夢の先の悪夢