ゆいこ様リク。
恋に鈍感な沖田と弱冠乙女な神楽ちゃん。


















ある春の、うららかな午後のお話だ。

「チャイナ、唇にいっぱい油がのって……フゴォォオ!!」

いつものように土方を軽くあしらい、巡回という名のサボりを決め込んでやってきた河原には、すでに先客がきていた。

「油なんかじゃないアル!これはリップクリームネ!そこいらのおっさん達の脂汗みたいなモンと一緒にするナ!!そ、それに…恋する乙女に向かってそれはないアル!!」

「誰もそこまで言ってねぇーだろィ。てゆーか、鯉ってなんでィ。鯉を使ってなにしようってんでさァ」

「お、お前。まさか誰かに恋した事ないアルか?」

「鯉は食うもんだろィ。それか、鑑賞…?まぁいいや。隣、座るぜィ」

殴られた鼻を右手でおさえつつ、チャイナの隣に腰をおろす。ちょうどその時、支えにしていた掌が少しだけチャイナの右手に触れた。

「あ、悪ィ…。て、チャイナ?」

「ぅ…あ、ぁ…ど、退くヨロシ!私に触るな!!最近お前と居るとドキドキが激しくてしょうがないアル!!」

まるで金魚のように口をパクパクさせ、顔を真っ赤にしてチャイナは怒りだした。てか、少し触っただけなのに、顔真っ赤にして怒るなんて。俺ってすげー嫌われてる?

「謝っただろィ。…んじゃ、俺は神楽さんのように暇じゃないんで。そろそろ寝まさァ。起こすんじゃねーよ?」

「お、おま…今名ま…ぇ…。いや、何でもないアル」

「…変なチャイナ。どっか具合でも悪いのか?」

「ぜ、全然アル!どこにも具合悪いところなんてないネ!」

やっぱり心配になって、小さい頃姉上が俺にしてくれたように、俺の額をチャイナの額にくっつけて体温をはかろうとした。するとチャイナは、更に顔を真っ赤にして腕を顔の前で交差してそれを遮った。

「や、やっぱり熱があるみたいネ!心配かけて悪かったアル!も、今日は帰りますヨ!!!」

ダッシュで帰ろうとするチャイナの腕をギリギリのところで掴んだ。

「うわ、やっぱ熱あるじゃねーかィ」

「わ、わわわわ分ってるネ!さっさと離せ!!」

「駄目に決まってるだろィ。いくらチャイナだからって病人だし、仕方ねーから今日だけ送ってやらァ」

そう言って俺はチャイナを背中におぶって歩き出した。チャイナは相変わらず体温が高い。

「わ、私重いから!!ひ、一人で歩けるアル!!!そ、それに沖田におんぶされたら…!」

「いいから、黙ってろって。耳元で騒がれるこっちの身にもなってみろィ。かなり煩いから。それに、重くねーよ。てゆーかなんで重くねーんだよ。あんだけ食っといて」

急にチャイナが静かになった。視界に入る限りチャイナを見れば、頬を真っ赤にさせて唇を尖らしている。あ、良く見たら本当に油じゃない。ほんのりとだが、薄いピンク色をしている。

「沖田は、がりっがりの女と、太った女。どっちが良いアルか…?」

「は?なんでィ、静かになったと思えばいきなり」

「どっちアル?」

「……そうだな。…チャイナくらいが丁度良いんじゃねーか?」

「ほ、本当アルか?」

今度はとても嬉しそうに微笑んだ。うわ。なんか、おかしい。俺の心臓変。

「沖田ぁ…」

「なんでィ」

「沖田の背中、好きアル。銀ちゃんよりも小さいけど、新八より大きくて、パピーよりも暖かいネ。沖田の背中にいると、とっても安心するアル。ねえ沖田。ほんとはね、今日は…沖田に言いたい…事が……あっ、て…」

最後の方は小さく途切れ途切れで何を言っているのか分らなかった。でも、安心するって言われた時は素直にうれしいと思った。

「……寝ちまったか」

まだ昼間で、本当は心地よく眠るのは俺だったはずなのに。でも、こうして二人でいるのも悪くないかと思う。少し、緊張するけど。でもどうして緊張しているのか分らない。

「好き…アル」

チャイナは一体何が好きなのだろうか。酢昆布?それとも団子?

小さなつぶやきは、何の気兼ねなく俺の中にストンと落ちて行った。トクリ、トクリと波打つ心臓は、きっとチャイナをおんぶして疲れたせいだろう。

それでも、この心臓の音が心地よくて、忘れられそうにもなくて。

「…もう少し。…このままでもいいかもな…」

願わくば、チャイナの『好き』が俺に向けられていれば良い。

わざと回り道したのは、俺と、チャイナだけの秘密だ。







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