夜の歌舞伎町は昼間以上に賑わう。それはもう煩いくらいに、女どもが色めき、自身の欲情を抑えんばかりの勢いで男どもの腕に、自ら腕をからめてそこらじゅうを歩くのだ。

賑わう表通りでは、それが普通。歌舞伎町に住んでいるため、別にどうってことはなかった。

「…仕事何かで、こんなとこ来たくなかったネ」

「仕方ねーだろィ。俺だって、好きでンな所来てるわけじゃねーよ。だいたい、来るとしたらもっとマシな女と来てらァ」

「あれ?遊女とか遊邸は真っ平御免なんじゃなかったアルか?」

「真っ平御免でィ」

沖田と神楽は以前沖田が言っていた茶屋に来ていた。『表向き』では普通の茶屋なのだ。しかし、本来の方向性として遊邸のような仕事を、ここはしている。

しかし、ただそれだけじゃ別になんてことない。問題は中沢吉一らがこの茶屋に集まって何かを企てているかもしれないということだ。

「だいたい、お前はこの店の主人には顔知られてるんダロ?よく来る事が出来たアルなァ」

「脅したって言っただろィ。俺達にゃ、誰も逆らえねえ。というか、女連れてきたら別に大丈夫だろィ?そういう風に見えると思うぜィ。俺達ァ」

「な、大丈夫アルか?頭パーンってなってないアルか?」

「あのなァ…。……っし。誰か来る」

沖田の言葉に、神楽は反応し隣の部屋の様子に聞き耳を立てた。この部屋の隣は、よく吉一らが利用しているらしい。

『……す…だ。約……日。た……着く。…さまが、……城を下す。………下剋上…。佐…う…村様が、……やよ…の…七日。港へ…をもって来て…ださる』

途切れ途切れの言葉に、神楽は眉をしかめる。よく聞き取れない。

城を下す?下剋上?七日に港。そしてはっきりとはきこえなかったがたしかにこう言ったはずだ。

「佐納…之村」

「誰でィ、それっ…『グワシャァァァン!!』……ぁ。悪ィチャイナ」

『誰だ!!!?』

隣から部屋を出てこちらに向かってくる音が聞こえる。神楽は舌打ちをしながら沖田の首根っこを掴み、窓から勢いよく外へ飛び出した。

部屋に入った男たちはもぬけのカラになったその部屋を、ただ汗をかきながら放心状態で見つめたままだった。







「お前あり得ないアル!!!」

走りながら沖田を怒鳴る神楽。この状況で、追手が来ないはずがないと思ったので屯所まで走って逃げる事にしたのだ。

「悪かったって言ってるだろィ!まさかあそこでスタンドが倒れるなんて思ってもみねーよ!!でも、これで完璧だな。奴らはスタンドが倒れた音を、情事の最中の音となんて思ってなかったようだぜィ。あの慌てようからすればァ…フッ。こりゃ完璧に向こうのミスでさァ」

「オメーのミスだヨ!!バカ!!それに、店の主人に聞かれれば私たちが居たって事バレるだろーガ!!」

「それは大丈夫でィ。店の主人にゃ、誰にも言われてはならない秘密があってねィ。俺はそれを知ってるから。んで、口止めも一応してあるし」

「…な、なら安心アルな。とにかく、ゴリにこのことを伝えるアル!!!!」

「へいへい」

「このまま走って行くアルよ!!!」

「へいへーい」

沖田の気だるげな声は、キラキラと光るネオンの中に消えて行った。






ネオン街とは裏腹に、屯所は静かだ。そう神楽は思った。というより、先ほどまでは仕事をミスした沖田に対しての暴行を働いていたのだが、山崎ら他隊士数名が命がけで神楽の暴行から沖田を救ったのでその騒がしさからすれば今は静かだということである。

茶屋で聞いた話はすでに沖田が報告済みであるため、神楽はかなめが眠っている自室へ足を運んだ。しかし、なぜか気が重いのは勘違いだろうか。真っ暗な廊下を、月明かりだけを頼りに進む。…いや、勘違いではない。何かがおかしい。

「何かを……。大切な何かを忘れている気がするアル…」

「どうしたのかい?」

肩に置かれた大きな手にピクリと震えたが、聞き慣れた声だったので神楽は振り向いた。此処の隊士どもが、こんな奴を信じるわけが分かる気がすると気付いたのは何時だっただろう。小さく息をして、奴の眼を見た。

「ゴリ…。どうしたアルカ?今かなめ寝てて…」

「いや、かなめちゃんに用があるんじゃなくて、チャイナさんに用があるんだ。たぶん、君は気づいているんじゃないかなと…思ってな」

「私が…?何に気づいてるアルか?」

「まぁ、少し外で話そう。此処では聞かれたくない話なんでな」

いつになく真剣な顔つきの近藤に圧倒され、神楽はコクンと頷きそして屯所を出た。近くの居酒屋に入ると近藤は神楽に酒を勧める。

「で、話は何アルか?」

「この事はトシと総悟にしか教えておらんのだがな…」

声を潜めて話し出す近藤。神楽は酒を飲みながら近藤を見据えた。

「……春雨が、関わっているらしい」

近藤の言葉が、ポツリポツリと聞こえる。神楽は小さく息をのんだ。奴が、関わっているかもしれない。そうだ。奴が関わっていたのなら、今までの事件安易に殺すのは簡単だ。しかし、村人を焼死させたのは誰だ?火元も焼けあとも何もない。ただそこにあったのは焼死体のみ。一体、誰が?

一瞬、沖田が脳裏をかすめた。奴は、以前私に何かを話そうとした。しかし、何も話さなかった。もしかすると、すでに沖田は春雨が関わっていた事を知っていたのではないだろうか。はぐらかされた?何のために…?

「どうして、私に教えるアルか?もしかしたら、私春雨の密偵かもしれないアルよ?」

「ハハハ!!チャイナさんはないと思うぞ。腐れ縁だ!それに、俺はチャイナさんを信じている」

大きな声で笑う近藤に、神楽は頬を染めた。

「……お人よし過ぎアル……」

拗ねたような神楽の表情に、近藤は優しく笑みを向ける。

「…ゴリって、たまにパピーみたいアルな……。姐御との事、少しだけなら応援してあげても良いアル…」

「…ちゃ、チャイナさっ…グスン」

その後、夜明けまで神楽は近藤の恋話を聞かされたそうだ。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -