短いスカートを冬に穿くのは厳しいほかない。女性用隊服というものは元々真選組にはないものだったのでそれなりの対処というものはないし、かといってそれをどうこうするという気も、元から神楽にはなかった。
それじゃあ何故そんな事を言ったのか。それは見ている側が寒いから。その他諸々だ。
「チャイナ娘。そろそろ会議だ。局長室に総悟連れて集まれ」
やはり片手にタバコを持ち、土方は言った。冬だというのに瞳孔を開かせて、逆にいろんな意味で寒くなってしまう。神楽は思ったが、妙にドつく気にもなれずにただうなずいた。
最近やけに気力がわかない。こんな大事に時期に風邪にかかるのだけはごめんだという気持ちは隊内の誰もが思っている事であるが、病には勝てるわけもなく隊内の5分の1が風邪というありきたりで、それでいてややこしい病に犯されている。
それは、一番隊の神山しかり、十番隊の原田しかり。
「最近くだらねえ病気にかかる奴が多いからな。テメーも気をつけろよ。・・・かなめも、しっかり予防はさせとけ。ガキにピーピー泣かれちゃこっちが困る」
「素直に心配だからって言えばいいアル。チキンアルな。マヨは」
「ちげえよ。ただ、こっちに支障があっちゃ困るだけだ。テメーに一番なついてんだ。もしかなめが風邪なったりしたらテメーが使いモンにならねぇーからな」
「うっさいアル。かなめの予防はバッチリ私がしてるネ。風邪になんてー…」
神楽が両手を広げて土方を小馬鹿にしたような言い草で発言しようとした時、一番隊の隊士が神楽を呼びに来た。何事かと思い、神楽も土方も隊士を見る。
隊士はすこし緊張した面持ちで言った。
「あのー…、かなめちゃん。発熱しちゃったんですけど…」
『マジでか』
* * *
「言わんこっちゃねえな」
「大丈夫アルか?かなめ・・・」
「ぅー…」
神楽はかなめの額に掌を乗せる。そこまで高い熱ではないが安静が必要との事。それを聞いて土方は溜め息を一つ落とした。
「最近、ずっと溜め息してるアル」
「こう隊士が使いもんにならない上、かなめまでこんなになっちゃあ溜め息でも穿きたくなんだよ。…それより、総悟はどうした」
「知らないアル。大方、どこのだれか知れない雌豚とでも一発かましてるんじゃないアルか?」
「たく。会議だって言うのに何やってんだよアイツは」
「誰でィ。人の噂してんのは。って、あれ。かなめ風邪?」
「みたいアル」
突如現れた沖田。土方こそびっくりしたものの、神楽はいたって冷静だった。それは、彼がすぐそこにいたという事を察知していたから。
「おい、大丈夫かィ」
「ぅ…。総悟にーちゃん」
沖田は、かなめの顔をやわらかいタオルで拭いてやると、ぽりぽりと頭をかいた。
「…私、ずっと思ってた事があるネ…」
「チャイナ娘が言いたい事は俺も分るぞ。たぶん、同じだ」
土方と神楽が視線を合わせてうんうんと頷き合う。沖田は、なんのことかさっぱり分からずに眉を寄せ、眉間に皺をよせていた。
「何が何だって言うんでィ。俺、なんかしやしたか?」
「いや、お前がどうこうとかじゃなくって…いや、お前がどうこうなんだけど」
「お前って、案外子供好きアルな」
土方が遠慮気味に行ったのにもかかわらず、神楽は正面から言ってのけたのだ。沖田はそんな彼らの言葉に数回瞬きをする。
「…好きで悪ィかよ。だいたい、こんなかたっ苦しいところに居ると、息抜きもしたくなるんでィ」
「あれ。じゃあお前遊邸とか行かないアルか?」
「行くわけねえだろィ。んなクッセー女どもと何か寝れるかよ。…つか、仮にもお前女だろィ。遊邸とか言うな」
「うっさいアル。しかも仮にって何アルか。仮にって」
「マウンテンゴリラの中のメスかと」
「死ネ、クソサド」
神楽と沖田の口喧嘩が始まるのを、土方はまた溜め息を一つはいて止めた。そいして、いままでどこにいたのかという事を沖田に聞いた。
「それで、お前はいままでどこに行ってたんだ?遊邸か」
「だからさっき言ったでしょう。遊邸は行きやせん。あ、でも遊邸になんのかな…。まぁ、さっきまで茶屋に居たんでさァ」
「お前!私を誘ってくれれば一緒に行ってやったのに!!!!」
「バカ。話聞いてろィ」
「それで、その茶屋に何かあったのか?」
土方はタバコに火をつけようとした。
「かなめが風邪で寝込んでるネ。タバコはお外でお願いしますヨ」
「ッチ。で、内容は」
「表向きは茶屋ってなってるんですがねィ。そこの常連って言う親父に脅し…じゃねーや。ちょいとお話を聞いたらペラペラしゃべってくれやしてねィ。裏の顔はいかがわしい店。まぁ、遊邸のようなもんなんでさァ」
「…で、それが今回の事件と何の関係があるんだよ」
「『中沢吉一』チャイナは知ってるだろィ」
ハッとして神楽は沖田を見つめた。その名を以前沖田自身から聞いていたからだ。そう。『中沢吉一』隠密起動、元総司令官副官。
「中沢吉一については後の会議で報告しまさァ。その関係者らしき人物も。今お知らせするのは、そいつらがよく集まるってぇのが、その茶屋なんですよ。それについてもまた、後ほど報告しやす」
「お前も、たまには役に立つアルな」
「たまにはなんて余計でィ」
「じゃあ、今から会議だ。頼むぞ」
「へーい」
気の抜けた返事に土方は眉を少し寄せるが、かなめが風邪という事もあって怒鳴るのはやめた。しかし、それ以前に土方の頭を支配していたのは、今後の調査の進路をどう進めるかだという事だけだった。
土方が出て言ったのを確認した沖田が、神楽を見て言った。
「チャイナに、ちょいと手伝ってもらいたい事があるんでさァ」
「…予感はしてたアル。…はぁ、かなめと遊ぶ時間が減っちゃうアルナ」
神楽のつぶやきに、沖田は視線をかなめに移した。多少、熱が上がっているように感じたが、大丈夫なようなので、かなめは山崎に任せ、神楽と一緒に部屋から出て行った。
リングと糸
奪われた策