せっかく咲いた桜の花も、知らない間にその辺の路傍に散っていた。初めて見た桜の花は、私の日本での初めての思い出。綺麗な桃色。

通学路。彼と並んで一緒に学校に行った。大きな手で頭を撫でてくれる優しい手。心が満たされた暖かい思い出。恋しい亜麻色。

一緒に授業をさぼって、大きく広がる空を眺めた。彼が私の肩を抱いて小さく笑っていた、私の素敵な思い出。包み込むような青色。

夕焼け空。長く伸びた影が印象的で、なんだかとても恥ずかしかった。初めて彼と手を繋いで帰った、私のとても大切な思い出。儚い橙色。

真っ暗な空。彼のアパートのベランダで、二人してクシャミしながら星を見た。流れる星が、時の流れのように感じた寂しい思い出。悲しくなる黒色。

初めて肌と肌を触れ合わせた、夜。名前を呼んでくれる彼の背中に腕をまわした。溜めこんでいた涙が嬉しさと共に溢れだす優しい思い出。全てを包み込んでくれるその瞳に魅せられた、愛しい朱色。


全てが良い思い出だ。

両手に握りしめられた、故郷行きのチケットは、片道分しかない。楽しかったあの頃も、楽しませてくれた友人も、愛しい彼との思い出も全て全て私の中にある。悲しむことなんて何もない。

大好きな故郷に、父に母に会える。そう思えばとても嬉しいはずなのに。こうしてクラスメイトも彼も、みんなみんな私のお見送りに来てくれてるのに。どうして気持ちが晴れないんだろう。

溢れる涙はあの夜の日の愛しい涙なんかじゃなくて、とても悲しいあの涙。

彼が近寄ってそっと、私の涙をぬぐって言った。

「泣くんじゃねえ。……絶対に、迎えに来るから」

見上げた時、涙をぼろぼろとこぼしながら彼は泣いていた。いつもはポーカーフェイスを気取ってるくせに、ずるい。ずるいよ。

「絶対…だから。嘘ついたら…」

「俺が、オメーの前で嘘ついたことあるか?」

今度は柔らかな笑みで私を見た。未だに涙は止まることを知らないけど、みんな私のために泣いてくれて、彼も私を想って泣いてくれてる。それがとてもうれしかった。





「帰ったら、俺と結婚しやしょう」




この一年。私は全力で恋をして、全力で彼を愛した。まるでドラマの中の主人公になったように、彼の愛を一身に受け止めた。最後に交わした熱く、長いキスは私を時の流れ≠ゥら解放してくれた気がした。今年最後の日本での思い出。甘く、とろけるような紅色の恋。




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この後沖田君はしっかり神楽ちゃんを
嫁にもらいます。




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