※其童話パロ(硝子の靴落っことすアレのつもりだったんですけど、なんか普通に王子×町娘になりました)。
最近、城が騒がしい日々が続いている。
大方、俺の婚約者を決めるためのパーティーの準備に忙しい使用人たちが慌てて計画を立てているのだろう。
世の中の王族というのはとても不幸だ。特に、その子ども。
自分の思うような生活は出来ても、自分が自ら決めた相手とは結婚が出来ないのだから。そして、どこの馬の骨かも分らない女と結婚して子供をつくる。
女としては夢を見るような感じだろうけど、実際そうじゃない。
一人部屋が、こんなに大きいのはとても寂しいことだ。
開かれた窓から、城下を見渡す。
慌ただしく働いている国民は、なんだかとても楽しそうだ。
もし、自分があの中へ入る事が出来たのなら、どれだけ幸せなことだろうか。
「…そうか。だったら、城下へ行けばいいのか」
これが運命を大きく変えるなんて、誰が予測したものか。
「ちょっと、アンタまたミスしてるじゃないの。この服は大切だから汚さないでっていつも言ってるでしょう!!もういいわ。このお洋服はいらない。捨てて来てちょうだい」
「お姉さま、どうせならこの子にあげて差し上げてはいかがかしら。こんなボロボロのお洋服、見てる私たちが悲しくなっちゃう。そうだわ!ほら、このハサミで切り刻んだら最近のお洋服のように見えるかもしれないわよ。はい、お姉さま。このハサミで切っちゃってください」
ニコリと微笑む二人の姉は、鼻の頭と額に大きなニキビ…いや、吹出物を飾っている。なんとも可哀相な容姿をした姉たちは、いったいどこまで美しくなるか未だ不明の私に対して嫉妬をしているのだろう。継母と姉二人が私を虐め尽くすのはとても楽しそうに一幕だ。
私だって可愛いお洋服が着たいし、綺麗なアクセサリーだって付けたいに決まっている。しかし、こうも毎日苛められて、服も切り裂かれるとそんな事は夢のまた夢だ。
「そう言えばお姉さま。今夜は確かお城で王子の花嫁を決めるパーティーが開催されるのでしたよね?」
「そうだったわ!この私が王子の花嫁になれば、召使を使い放題!王子を一人占めしてあんな事やこんな事もし放題よ!!」
勝手に妄想に浸っている姉二人をよそに、無言で自室に帰る。勿論、姉たちが私に託したお洋服は全てゴミ箱行きだ。あの不細工ども。そのうち痛い目にあわせてやる。
だいたい、この世で一の美貌を持つ王子だんて。そんなの無理に決まっている。だって、この私こそがこの世で一の美貌を持つのだから。
「フン。何が王子アルか。…あ、そだった。クソババァに頼まれてたフランスパン買いに行かなくちゃ行けなかったアル」
せっかく部屋に戻ってきたというのに、また部屋を出ないければならないなんて面倒くさいにも程がある。
「ちっ。しょうがないアル。これを買ってこないと私が明日ご飯を食べれないネ」
人間、三大欲求とやらには勝てないものだ。頭を掻きながら、さながら親父のように欠伸をした。
『にーちゃん、どうだい?この果物買ってかないかい!』
『お兄さん!この花束、彼女さんに渡してみれば?』
という声が四方八方からとんでくる。結構楽しいじゃないか、城下の生活というのも。俺も、こんなところに生まれてきたかったものだ。
「…出来るなら。この中から嫁が欲しいもんでさァ」
今夜あるというパーティーには、貴族やそんな家系のものが来ると言う。どうもそんなものには興味がないのだが、最近になって親父が言いだしたのだ。その、結婚について。あまりにも俺が興味を示さなかったので、勝手に開くと言いだした。
「だいたい自分の嫁くらい自分で決めるっつーの。いつまで経っても過保護なんでィ。いつまでもガキじゃねーよ」
それにしても腹が減った。近くに何かないかとあたりを見回す。
「あ、なんか居た」
後ろを見た瞬間に目に入り込んできたのは、とても奇抜な色彩を持った少女だった。パン屋で何か買うのだろうか。
「ちょっといいですかィ?」
「…へ?あぁ。何ですカ?」
「ちょいと腹が減っててねィ。アンタ、どっかいい店知らないか?」
「…ふーん。あ、そうだ!だったらコレあげるアル」
そう言って少女がとりだしたのは、先ほど買っていたパンだった。結構な量のパンが入っている。チョココロネやらノーマルなパンやら。
「マジでか。すげー。ありがとなァ」
「良いアル。どうせコレ私のじゃないし」
「母親の…とか?」
「母親なんて…可愛いもんじゃないネ。継母っていうのヨ。血がつながってないクソババァ。ついでに言うと、その袋の中に入ってるのは全部私のじゃないから遠慮なく食べてヨロシ」
「ふーん。じゃ、お構いなく」
「おうヨ」
何とも穏やかな時間だと思った。
城の中では女と接すると言えば使用人や母親くらい。姉妹なんていう者もいないし、とにかく初めてだ。女と、しかも初対面でこんな穏やかな雰囲気。
「……おい。お前、私の事美しいと思うアルか?」
「はっ?」
「今日屋敷で無性に機嫌が悪くなるようなことを聞いちゃったアル」
「…なんでィ」
「この国の王子…」
ドキッとした。バレたのか?
「この国の王子が、この世で一の美貌を持つって…。ありえないアル!私の方がこの世で一の美貌を持ってるって言うのに!!!男なんかに美貌なんていらないアル。大体、どうして男が美貌なんだヨ!王様とか王子とか、ただその名前ってだけで皆決めすぎヨ!実際、その王子を見たアルか?私は見てない。だから私が一番。みんな上辺だけで決めるから、本当の正体を知った時に、一番落ち込むのは自分自身アル。もしも王子が紳士的で、とても優しくて腹黒くなくって私好みだったという事実を私自身が見たって言うんなら、その時は認めるかもしれないヨ。でも、それまでは私がこの世で一番の美貌を誇るネ!!」
何とも言い難い少女の大演説に、完敗した。惚れた。こんな綺麗な女は初めて見た。
「随分な演説だねィ。確かに、アンタの言う事には一理あるな。話した事も、ましてや会った事も見た事もない人物を勝手に作って、夢見るのは利己的思案ってもんでさァ。アンタみたいな女だったら、嫁に貰っても大丈夫な気がする」
「お兄さん、結婚するアルか?」
「あー…、今日そのパーティーみたいなもんがあるんでさァ。良かったらどうでィ。来てみるかィ?」
目をキラキラしている少女は、とても可愛らしい。しかし、すぐに不機嫌な顔をした。
「無理アル。家の雑用、押しつけられちゃったネ。今日、お城でパーティーがあるって…。いいなぁー。私も行きたかったアル…」
そうしたら、おいしいご飯いっぱい食べれるのに!!
なんて叫んでいる少女。うん。やっぱり、この娘しかいない。何処かで感じたんだ。この子が運命の娘だって。
「それじゃあお兄さん。またネ!」
「あ、待って!」
「何アルか?」
顔をこちらに向けて首をかしげる。そのアングル、最高。
「名前…と、家教えて下せィ」
「名前?…神楽アル!家は、西の端の大きな屋敷!それじゃーネ!」
走って消えていく後ろ姿。
「あ!そうだ!!!」
振り返ってまた、俺を見る。
「?」
「お兄ーさんなら、この世で一の美貌を持った男の人にしてあげても良いアルよーっ!」
笑顔でそんな事言われたら…。もう、惨敗だ。
「神楽…か。親父に相談してみるかなァ…」
今日はなんだかとってもいい日だった!
家に帰ってから、フランスパンを半分に切ってバター焼きした。とっても美味しくって、ほっぺたが落ちそうだ。そういえば、あのお兄さんに継母達のパンをあげてしまったけれど……あの人は結局誰だったのだろうか。
「神楽!かぐらー!!!」
パイプを伝って、お呼び出しが掛かる。今度は靴を持って来いだ?そんなの自分で行けよ。
「今いいトコだったのに」
せっかく気分が良かったのに台無しだ。どうしてくれる。
「今行きますアル!!!」
いつかきっと、ギャフンと言わせてやる!!心に決めたのだった。
夜。
家の中は大騒ぎだ。
ドレスは何にする?お化粧はこれで良い?胸元を開かなくっちゃ!
お前らはどこのアイドルですか?!
「はーぁ。いいアルな。私もご飯食べたかったアル」
「神楽。無駄口は叩かなくても良いの。さっさと私たちの準備をしなさい!ほら、お姉さま。もうすぐ始りますよ。早く城へまいりましょう?」
「そうね。……あら」
「どうしたの?お姉さま」
「神楽。お客様よ。さっさと出なさい。ったく。使えない娘だこと」
使えないのはお前だろうが!なんて心の中で囁いてみる。口には出さないけど。
「今出ますヨー」
大きな扉を急いで開くと、目の前に居たのは今日昼間に会ったお兄さんだった。なんだかとっても綺麗な格好をしている。
「お兄さん。どうしたアルか?…その…どこぞの王子のような格好をして…」
「誘拐しに来やした。ほら、今日パーティーするって言っただろィ?だから、迎えに来たんでィ」
「ほえー。かっけー。でも、どこでパーティーがあるネ?」
「まぁ、それは着いてからのお楽しみって事で。それじゃ、この娘は借りて行くんで。よろしく」
唐突に現れた美男子に姉達は頬を赤くしている。気持悪!!!!
なんだか知らないが、目隠しをされてだぶん、担がれた。何かに乗り込んだのだろうか、ガタガタと揺れる。馬車に乗ったのだろうか。
「お、お兄さん…?」
「総悟っていうんでィ。俺の名前」
「総悟?」
「そっ」
「で、どこに行くアルか?私に何の用がアルネ?」
「どこに行くかはまだ内緒。何の用って言われると…なんだ、報告をしに行くようなものでさァ」
「報告?何の報告アルか?」
「俺の花嫁探しの結果を」
「ふーん。じゃあ私いらないアルよ?」
「それがアンタが一番必要なんでさァ。何て言うの?最初にあってから数時間しか経ってないけど、俺がアンタに運命感じちゃって。つまり、俺の花嫁探しの成果がアンタって事を親父に報告に行くんでィ」
「へぇー………。って、結婚!?花嫁!?私が!!??」
「そう言う事」
話しているうちに目的地についたのだろうか。何処かの部屋へ入って行ったんだと思う。しわがれた声がして、やっと目隠しを外された。ここは、どこ?
「ほぉ…アンタが神楽ちゃんかぃ」
王冠をかぶってる。
「叔父さん、王冠なんかかぶっちゃって…どこかの王様アルか?」
そう言えば、二人して笑い始めるお兄さんと、叔父さん。どこが面白いのやら、理解不能だ。
「ハッハッハッハ!息子が惹かれるのも無理はないだろう。そうか、そうか!息子がやっと結婚相手を決めたか!!」
話についていけない。とにかく、ココはどこなんだ?
「…あの…、ここはどこアルか?」
「あぁ。ここは城だよ。この国の」
「城??!!」
どうやら私は夢を見ているようだ。
「お、お城?という事は、この冠叔父さんが王様で、このお兄さんが……」
「そう。神楽に認められた男の人でィ」
自分の昼間の言葉を思い出す。
『お兄ーさんなら、この世で一の美貌を持った男の人にしてあげても良いアルよーっ!』
恥ずかしくなった。だって、あれっきりだと思っていた相手だっただけに本心をそのままに言ったのだから。顔が熱くなるのを感じる。
どうしよう。どうしよう。
「う…わ、わたし………。か、帰りますアル!!!!!」
ダッシュで逃亡だ。幸いにも、この部屋は出口に近い部屋だったらしい。体力にも運動神経にも自身があったため、なんとか城を脱出して家に帰った。
「逃げちまいやした」
「逃げちゃったね」
「まぁ、大丈夫でさァ。家も知ってるし、明日また出直してきやす」
「そうかぃ。上手く行くといいなぁ、総悟」
「はい」
部屋を出て、城の外へ出る。階段をゆっくり下りていくと、金色に光る何かが落ちていた。
「…これは…」
懐中時計…ではないようだ。あいにく、他人の物を勝手に見てはいけないなんて教わっていないので、勝手に見ることにした。
中にあったのは、丸く切り抜かれた写真。
「…これは…神楽と…神楽の母親と父親?」
今日見た神楽の家族は、たぶん神楽が言っていた継母とその娘達であろう。顔だちを見れば分る。それに、この写真の中の神楽と、幼い神楽を抱いている女性は今の神楽に瓜二つだ。というより、それにまだ幼さが残っているのが神楽、という感じ。
「…幸せにしてやりてぇーなァ…」
城下の道いっぱいに、パーティーに出席するであろう馬車があふれかえっているのが見えた。
翌日、国中は大騒ぎになっていた。内容は、『王子が花嫁を見つけた』ということ。
しかし、そんな事には気にも留めずにあるものを探していた。
「ないないないないないないアル!!!!」
それは、肌身離さずいつも持ち歩いている自分の本当の家族が映った写真の入ったペンダント。
「…どうしてないアルか!!!」
朝から聞こえる大声に、姉や継母も何だ何だと起きてくる。
「神楽!朝から煩いのよ!だいたい…」
「煩いのはお前らネ!今探してるんだから、黙ってて欲しいアル!!!」
「神楽っ!」
そう言われて振り返ると同時に頬に激しい痛みが突き刺さった。
「っ!」
「何だい。その言い草は。あなたのお姉さまに向かって何たる暴言を吐くの?躾けがなっていないようね。立ちなさい、神楽」
俯き、拳を握りしめる。だめだ。ここで泣いては、いいように付け込まれる。流されてはいけない。…でも…辛いよ…。
「言う事が聞けないようだねぇ」
継母が手を広げて、もう一発頬を叩こうとした。その時。
大きな音を立てて屋敷の扉が開いた。
「白馬の王子様さんじょーう…なんちって」
「……お、お兄さん?」
すると、継母は口元を引き攣らせて神楽から離れた。
「…お、…王子ではありませんか。ど、どうしたのです?わざわざこんなボロ屋敷に。…あ!まさか、私の娘を花嫁に迎えて下さるのですか!」
「んー。まぁ、そういう事になるねィ。…爺、状を出してくれィ」
「かしこまりました、王子」
「さんきゅー、爺」
そう言いながらお兄さんは何やら状を読み始めた。
「えーっ。『このたび、我が息子である総悟の花嫁を昨日決定した。これは王子自らの意思であり、花嫁の意思を尊重するものであって、決して第三者の心意を問わんものとする。そして、この春の良き日に花嫁に選ばれた娘。名を『神楽』は、王子の妻として生涯つきそって行く事を命ず』」
状を聞きながら文に矛盾を感じたが、しかし、有無を言わさぬお兄さんの瞳に圧倒されて、何も言えなくなった。
「ってことなんで。神楽は今日から俺の嫁として、城への移住を許可しまさァ」
そう言うと、お兄さんは私の肩に手をのせてニコリと笑った。ドキリとした。初めてだ、こんな感情。
顔を真っ赤にしていると体が浮いた!正確に言うとまた担がれているだけなのだが…。
どうせなら、お姫様抱っこがいい。そう思うのは、やっぱり女の子だからなのだ。おぉ、まだ自分にも女らしさというものが残っていたのか。
素早く馬車の乗せられて、頬っぺたにちゅーされた。軽く放心状態。
「お、お兄さん…」
「総悟だって言っただろィ?」
そう言うや否や、私に差し出したもの。それは今朝散々捜しまわった写真の入った金色のペンダントだった。
「…そ、総悟。これどこで…?」
「城の、階段のトコ。よかったな。俺が拾って」
「…あ、ありがとうアル」
「どういたしまして。あと…、俺の、花嫁さんになってくれるか?」
微笑みながら、でも照れている表情をみていたら、何とも言えなくなって、でもとっても嬉しくて小さくコクリと頷いた。
「よろしくお願いしますアル」
ロマンチスト王子
(やっぱり運命だったんだ)