先よみバレンタイン



「…で、できた!」
「あら…上手いじゃない、名前」
「本当!?」

藤原家の台所を借りて、数日後に控えたバレンタインのためにチョコを広げたのが、数時間前。
やっと出来上がったチョコは、お菓子作りが苦手な名前にしては、とても上手に思える。
素直に口にすれば嬉しそうに問う名前。

「えぇ…昌浩、喜ぶわね」
「…そ、そうかな」

少し恥ずかしそうにするのが、女から見ても可愛いらしい。
まったく、昌浩が羨ましくなるほどに。


「そういえば…」
彰子は誰にチョコあげるの?

それは、純粋な疑問。
名前にチョコ作りを教えながら、隣で作業をこなしていた彰子。
好きな人がいる、とかいう話を彰子から聞いたことがなかったから。
そんな私に構わず、ニコニコと笑みを浮かべて答える。

「秘密よ、」
当日になったら分かるから。

音符がつくかの如く上機嫌な彰子に、少し不安になる。
ま、まさか…

「…昌浩?」
「そんなわけないでしょう?」
昌浩は名前のチョコだけで心いっぱいなのよ?

思うより凄い発言をした彰子に少し驚いた。
でも、じゃぁ…と考えるが、彰子の笑顔に制されて…それ以上は考えなかった。


バレンタイン当日。
母は買い物に出ているから、今…家には名前ひとり。
身支度もチョコの準備も万端で…なのに、心の準備だけが、どれだけ経ってもできないでいた。
そんな思いに集中していると、家の呼び鈴が鳴った。

「…あ、はーい!」

一拍の遅れを気にして慌てて応えると、名前を呼ぶ優しい声が聞こえた。

「名前、居る?」
「…ま、昌浩!?」

突然のことに驚き、名前を呼んで応えるのが精一杯だった。

「うん、母さんに頼まれ事したんだ」
ちょっといい?

何も知らない、何にも気付いてないから…普通でいられる。

一つ曖昧に返事をして、玄関の戸を開ける。
姿を見せた名前に、昌浩は少し大きな段ボール箱を見せて、玄関に置いた。

「これ…送ってきてくれたから、おすそ分け」
「…ありがとう、」

なんと言えばいいのか分からなくて、無意識に零れたのはとても短い言葉。

「それじゃぁ、…」
「あ…っ、ま、待って!」

それだけ言って帰ろうとした昌浩を、知らないうちに引き留める。
今なら…今なら渡せる、と、思った。

不思議そうな表情で見つめる昌浩をそのままに、チョコを取りに走る。

玄関…昌浩の前まで戻って。
手にした箱を渡す方法が見つからず、箱を持った手を…すっ、と差し出した。

「…え?」
「よかったら…貰って、くれる?」
「俺、に…?」

突然のことに驚く昌浩に一つ頷いて応えて、言葉を続ける。

「今日、バレンタインだから…」
「え…っ!?」

驚くような、戸惑うような表情の昌浩。
少しの時間をおいて、控えめに受け取られた箱。
それに、なんだか安心した。

「…ありが、とう…」
「……こっちこそ、」

恥ずかしげに視線を逸らして紡ぐ。

「そ、それじゃぁ…帰るよ」

またね、と続けて昌浩が玄関を振り返ると…彰子が居た。

「「あ、彰子!!?」」
「おはよう、昌浩来てたのね」

驚く二人とは逆に彰子はそんな素振りを見せず、昌浩に並んで名前の前に立った。
そして、にこやかに微笑んで口を開く。

「名前にチョコを渡しに来たの」
はい、これ。

差し出されたのは、あの時作られたチョコ…そして、それを包む飾り。

「え、これっ…私、に?」
「もちろん」

戸惑い気味に問えば、にっこりと笑顔が返ってきた。
そして、昌浩に視線を移すと続ける。

「昌浩ってば何も言わないんだもの…まだ名前はあげられないわ」

その意味を、理解するのは少し先。
そして…『まだ』が叶うのは、それよりさらに先のこと。




平成ってことで、バレンタイン!
彰子夢じゃないですが…彰子大好きなんでv
挙動不審な二人と企みありげな彰子…妄想全開です!(笑)


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