「イッキさん、」

夜も遅い時間。
ベッドに潜り込んだ名前がイッキを呼ぶ。

「ん、なぁに?」

毎夜愛を囁く、その少し前のこと。



スペードの呼び名



「……名前、呼びたい」

「えっ、僕の?」

控えめにそう呟く名前に、思わず聞き返してしまう。
そうすれば彼女は、一つ頷いて不安そうな表情で。なのに、まっすぐに僕の目を見つめてきた。

「…うん、ダメ?」

近い距離で、小さく首を傾げてお願いする。
内容がこれじゃなかったら即行でオーケーしてたな、これ。

だけど、結局。

「………いいよ、呼んで。君の声で、」

ただし、条件付きでね。

そう応えれば、名前は嬉しそうに笑った。

「うん、──イッキュウ、大好き」

ああ。君が紡ぐ愛がこんなに嬉しいのに。
君の笑顔が、こんなに僕の心を満たすのに。

…やっぱり、しっくりこないや。


だから、

「ねえ…“イッキ”って、呼んでよ」

…おねがい。

甘えるようにそう囁く。
こうすれば、少し困ったような表情で、だけど願いを叶えてくれる。
いつもの優しい名前なら、きっとそうだよね。

「………い、イッキ、」

「うん」

「……………」

長い沈黙。
静かに彼女の表情を見つめて、続く言葉を待つ。

「──ね、続きも。言って?」

待ちきれなくて急かすように言えば、少しだけ言いづらそうに目を逸らす。

その彼女が振り向いて。
テレて赤く染まる彼女と、言葉を待つ僕の目が、しっかりと合う。

「イッキ、……大好き」

「…うん。僕も、名前が好きだよ。愛してる」

ああ。テレてる表情で、なのに少し悔しそうで。
そんな姿も君らしくて、愛しくてたまらない。

「…私の方が好きだもん。イッキさんのこと…ずっと、ずっと」

ほんとは人一倍恥ずかしがり屋の彼女の、精一杯の挑発。

「ふふ、じゃあ──ゆっくり勝負といこうか、」

「…負けません、」

負けず嫌いな彼女と、また明日から勝負の始まり。

どんな言葉で君を誘惑しようか。
そんなことを考えながら眠りについた。




イッキュウさんの日ということで。
仕事中こんなことばっかり考えてたわけではないですよ!←


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