〔遙かなる時空の中で3:ヒノエ〕
春夜の子守唄
寒い、なんて呟きながら布団に顔をうずめる。
いつもなら、もう深い眠りの中だろう時間。
隣で肘を支えに寝転ぶヒノエに少しだけ視線をずらして見つめる。
…もう少し。
もう少しで日付が変わる、月が変わる。
そして、やってくるのは…4月1日。
目が合って、つい逸らしてしまった視線を時計に向けると、ちょうど12時を越えた頃だった。
「ヒノエ、誕生日おめでとう」
伝えると、優しくなる瞳。
ありがとう、と、声が聞こえたのに安心したのか、途端に眠気が襲ってきた。
「ん…ごめ、ん」
「いや、おやすみ、姫君…いい夢を───」
そして…叶うなら、その幸せに俺もいることを。
少しして、聞こえ始めた寝息から表情をうかがうと、安心しきった可愛い寝顔が見えて笑みが零れる。
流れる髪に触れ、愛おしげに見つめて。
その間も基礎正しく零れる寝息につられて、肘で支えていた頭を下ろした。
近く、近く…想い人を抱き寄せて、目を閉じる。
この想いも幸せも、誰にも渡さない。
「おまえは、俺がもらうよ」
囁かれた言葉は、短く響いて夜に紛れていった。
『背中合わせのお題 03. 君の寝息を子守唄に』
恋したくなるお題 配布 様より。
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