〔ヴァンパイア騎士:一条拓麻〕【夜咲】



並んで歩く時間



「…頼まれてくれる?」

ふと、お邪魔している部屋の近くを通れば、理事長に呼び止められる。

断る理由もないので、頷いて買出しのメモを受け取る。

…すると、
静かに扉を開けて、中を覗く姿。
それは…私の、大好きな彼。


「理事長…枢、見ませんでした?」
「いや…枢くんは、見てないよ?」

その答えを聞いて、すぐ。
私の姿に気が付いて、近くまで来てくれる。

「…どうしたの?」

覗き込むように、私の手元を見ると、不思議そうに首を傾げる。
その疑問に答えたのは、私より理事長の方が早くて…。…。
静かに彼の言葉を聞くだけだった。

「買い出しをお願いしたんだよ、一条君も行ってくれるかい?」

そう言った理事長に少し驚いたけど、はい、と応えて優しく笑った先輩を見れば、なにより嬉しさが勝る。



部屋を出て、薄暗くなり始めた街へと歩き出す。
前には、一条先輩の背が見えていて…なんだか、とても安心する。
少し、彼の後をついて歩けば…突然、彼が振り向く。

さっさと済ませちゃおうか、
「だから…ほら、」

無邪気に笑って見せた先輩が、嬉しそうに私を呼ぶ。
そして、手を取って…繋ぐ。
それだけなのに…とても、あたたかい。


笑みが零れたのは…、
貴方の笑顔につられて、か。
それとも…懐かしいこの感覚が、どうしようもなく嬉しいからか。

どちらかなんて、分からない。
それに…きっと、どっちも。

そんなことより…、
今、貴方と居られるときが…幸せ───



ゆっくり歩こう。

このときを…、
ずっと長く、感じていたいから。





【歩み寄る二人の為のお題 09.懐かしい距離】
恋したくなるお題 配布 様より。




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