寝冷え



「いらっしゃい、伯王さん」
あらあら、庵さんと隼斗さんも来て下さったんですね。

にこにこと笑みを浮かべる薫子。
学園内の調理室…クッキング部のお庭にて、部員たちが揃って楽しそうにテーブルの上に興味を寄せる。
珍しいお菓子をもらったのだと言って花園部長が開いたらしいお茶会だが、それならと競うように部員たちが持ち寄ったお菓子がテーブルの上で山積みになっていた。
伯王たちは…良が嬉しそうに行くと言っていたこと、それと自分たちにも誘いをもらったことで、こうして顔を出したのだ。
しかし、来てみると…

「お誘いありがとうございます、──…氷村は?」

ぐるっと辺りを見渡しても、肝心のご主人の姿が見えない。
と、薫子に尋ねる。

「良ちゃん?…そういえば、」
「遅れてごめんっ!薫子さん!」
「良ちゃん……いえ、これから始めるところよ」

ふと考えていると飛び込むように現れた良に、驚きながらも笑顔で返す。

お茶会は、あっと言う間に盛り上がりをみせた。
良も例外ではなく、隣に座った薫子とその反対で控える伯王たちも巻き込んで、話に華を咲かせていた。



「へっ、くしゅっ!」

窓をぬけた風が少し体に触れて流れる。
それと同時に、体を縮めた良が抑えきれずに声をもらした。

「風邪か!?氷村」
「え…ううん、何でもないよ」
「なんでもないわけないだろ───これ、羽織ってろ」

少し慌てた様子の伯王。
体が温まるまででいいから、とどこからか取り出したストールを良の肩にかけている。

「ありがとー、伯王」
「…これくらい当然だ」

そんなことより、なんでこんな季節にくしゃみ…と伯王が尋ねるより前に、薫子が呟く。

「さっき木陰でお昼寝していたものね、…冷えたのかしら?」

それを聞いた伯王が、“木陰で昼寝”という言葉に反応して、声をあげる。

「お前…前にも言っただろ、風邪ひくといけないから外で寝るなって」
「うっ…そう、なんだけど、気持ちよくってつい…」
「つい、じゃない。…心配するだろ」
「伯王…」

一通り言って満足したのか、なんとも言いがたい表情の伯王に返す言葉が見つからない。

それに…

(伯王がいると思うと安心して、どこでも寝れるんだよね…って言ったら、やっぱり怒る…かな)

密かに心で思うことも、絶対彼には言えないと思った。




『執事様の夏休み』提出作品。
私も、どこでも、おやすみ3秒です(笑)

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