夏の暑さを吹き消すような涼しさを求める中。
よく話題になるのが、お化け屋敷や肝試し。
それは…ここ、双星館学園でも同じこと。



お化け屋敷の通り方



「里來ちゃん、遊園地行かない?」
近くに新しくできたんだってー!

にっこり笑った良ちゃんに誘われて、ここまでやって来た。
気が付けば…伯王、庵、隼斗もいた。
いつもと変わらないメンバー。
保護者がいっぱい…と少し肩を落としたのと同時に、隼斗がいることを嬉しく思った私もいた。



「次はどこに行く?」

時は昼を迎える少し前。
平日だからか人が少なくて貸切気分になり、つい思いっきりはしゃいでしまった。
楽しさから笑顔のまま良ちゃんに問うたが、そのまま笑顔が凍りつく。

「うーん…お化け屋敷!」
「お化け屋敷といったら、やっぱり二人一組だよね?」

庵まで、そんなこというんだから…。
しかも、「やめるとは言わせないよ?」と釘まで刺されて。
対抗する術を知らない私は、伯王を正面から睨むように見つめる。

「えー!伯王っ!」
「な、なんだよっ!」
「一緒に行こう!」
「はぁっ!?」

だって…良ちゃんは、やっぱり女の子だから、怖がるかもしれないし…。
庵は、絶対怖い話するからイヤ。
隼斗は…普段なら、一緒にいたいんだけど…ここでは、ちょっと…。…。
と、すると!

「ほら…伯王しかいないのよ?」

必死のお願い。
…伯王なら良ちゃんを選ぶんだろうけど、ちょっとだけの希望をこめて。

「それじゃぁ、平等にじゃんけんで決めようか」
勝った同士、負けた同士。

伯王の答えを待つ間に、そう提案する庵。
それじゃぁ伯王と一緒になる確率低いじゃない!
そんなことを考えていると、今まで凍りついていた隼斗がようやく口を開く。

「…だけど!それだと一人余るだろう!」

言われて思い浮かべれば、確かにそうだ。
残りの一人はどうするんだろう?

「ひょっとして、残ってて…
「さぁ、どうだろうね?」
…んなワケないか…」

にっこり笑った庵に、少しの希望もなくなって。
さらには、一人で行くかもしれないという恐怖まで付いて。
…もう、逃げられない。

「よし!じゃんけんっ───」


「「えぇえーーーっ!!!」」
「あ、伯王とだ!」
「あぁ、」

伯王と良ちゃん、私と隼斗、それから庵。
じゃんけん…これが平等だなんて言わせない…っ!!!

うー、と唸りながらそんなことを思っていると急かすように庵が笑う。

「はい、それじゃあ…伯王たちから行ってきなよ」
「はーい!」
「…おいっ、氷村!」

楽しそうに元気な返事をして入っていく良ちゃんを、伯王が追いかける。
そんな二人を、私たち3人…いや、二人、は。
ベンチに腰を下ろして、ドキドキしながら待つことになる。



「わぁ、すごい!これも…」

お化け屋敷側の目的なんて気にしない、というように楽しそうな良の様子に伯王は少し肩を落とした。

ちょっとでも怯えてくれれば、もう少し傍にいけるのに…。

だけど、歩くペースは変わらないままゴールは近づいている。
そんなとき…、

「うわっ!!?」

良が少し大きな声を上げた。
起こったことにか、良が突然上げた声にか、伯王も少し驚いた様子。
なんだぁ、と良がほっと一息吐くのが聞こえて、それと同時に服を引っ張られる感覚。

「あっ、ごめん…ちょっと、ビックリしちゃって…」
「…いい」

遠慮がちに離された手を捕まえて、自分へ寄せるように少し引く。

「ありがとっ」
「…いや、別に」

無邪気な笑顔を向けられると、返答に困る。
…自分の為。
お前を傍に置いておきたかったから、なんて…言えるわけないだろ。

照れた顔を隠すようにそっぽを向いた伯王と上機嫌の良がゴールに着くのは、もう少し後。



「あー、終わっちゃったぁー」
「思ったより早かったな」

二人が戻ってきたのを確認すると、なんだか緊張が高まる。
そんな中、伯王が呟いた言葉が少しだけ希望になった…気がする。
だけど、庵が続けた言葉にまた体が強張るのが分かった。

「伯王、手なんて繋いじゃって…そんなに怖かったの?」
「…なんでだよ」

そう言った伯王は、不満そうな顔。
私は、多分…ものすごく引きつった顔してる。
そんな私を心配したのか、伯王と繋いでいた手を離して、良ちゃんが近くにきた。

「里來ちゃん、大丈夫だよ?ちょっとビックリしたけど、そんなに怖くなかったから」
「…あ、はは…」

それは良ちゃんがつわものだからでは…?
とは、とても言えなかった。

「さぁ、伯王と氷村さんも帰ってきたし…いってらっしゃい、二人とも」

庵の言葉に、苦笑が凍る。
うわぁ…やっぱり覚えてた…よね。
…諦め悪いけど、ヤダなぁ…。

そんなことを必死で考えていると、隣の隼斗が私の手を引いて決心したように立ち上がった。

「よし!行くぞ、里來!」
「えぇっ!?…本気?」

まだ、心の準備が…なんて言う暇もないうちに、隼斗が作戦を話してくれた。

「すぐ終わるなら……出口まで、全力で走る!」
「……うん。その代わり…」
「な、なんだ?」
「ちゃんと、ゴールまで連れてってよ?」
「…ま、任せとけ!」

と、そんな感じで少し竦む足を見つめて、一回深呼吸。
もちろん、手は離さないままで。

「…行くぞ」
「…おっけー」

ダッシュ!
と、掛け声でも聞こえそうな勢いで走り出した二人。
途中でなにやら大きい音や声も聞こえたが、伯王たちよりも大分早くゴールから姿を見せた。

「あー、疲れたぁ…」
「もうイヤ…」

かなりの勢いで出てきたからか、良ちゃんは驚いたように目を見開いていて、伯王と庵は呆れた様子。
あ、庵といえば…。

「最後、庵でしょ?早く行ってきなさいよ!」
「え、行った方がいい?」
「当たり前だろ!?だって、一人でも行くって…」
「…僕は何とも言ってないけどね」

ハメられた!?
って思った、正直。
多分、隼斗も。

「だって、僕が一人で行ったところで面白くないでしょう?」

庵が続けた言葉に、悔しいけど納得。
それだけでも憎らしいのに、さらに言葉が続く。

「面白かったでしょう?また皆で来ようか」

その笑顔がこんなにも憎たらしいと思ったのはいつ以来だろう…。
感情の示すまま、目尻の涙も払わずに、庵の言葉を大声で否定した。


もう、絶対…

「お化け屋敷なんて入らないんだから!」
「お化け屋敷なんて入らないからな!」


…それでも、
隼斗が手を引いてくれたのがちょっぴり嬉しかったなんて、絶対に言わない。




『執事様の夏祭り』提出作品。
某小説を読んで浮かんだネタ。私は完全里來ちゃん派(笑)

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