夏休みにもかかわらず、Bクラス生は忙しいらしい。
そんな日も夕方に差し掛かる頃、伯王はお祭好きのご主人様の誘いに耳を傾けていた。

「祭り?」
「そう、近くであるんだって!皆で行ってみようよ」
「それはいいが…皆って、」

心当たりのある顔を浮かべて、確認しようと口を開くと…遮るように声がした。

「私も、に決まってるでしょ?ね、良ちゃん」
「里來ちゃん!」

にこっと笑うと、嬉しそうに頷く良に一層笑みを深くした。
里來と同じく、いつの間にか来ていたらしい幼馴染二人も行く気満々の様子。

「もちろん、僕たちも一緒に行くよ」
「…やっぱりか。ていうか、どっから出てきたんだ」
「どっからでもいいだろ?さぁ、早く行こうぜー」
「そうそう、善は急げって言うでしょ?」
「…なんか違う、」
「細かいことは気にしない。ほら、良ちゃん。伯王も、行くよー」

結局、楽しそうに話す里來と良に続くように5人で祭りへ向かった。



金魚掬い



「…で、来たけど」
「あぁ…氷村、どうするんだ?」

ところ変わって。
ざわざわと人の多い場所でどう動くつもりなのか、と良に視線が集まる。

「うーん……とりあえず、順番に見てみようよ」

りんご飴、わたあめ、射的…などなど。
たくさんの人の間から楽しそうなゲームや美味しそうな食べ物が顔を覗かせる。
そんな中で伯王たちの目に留まったのが…

「金魚掬い、か…」
「懐かしいね」
「あぁ、あの時以来だもんなぁ」
「あぁ…あれはビックリしたなぁ」

懐かしむ様子の4人に尋ねるように、良が首を傾げる。

「あの時?」
「小学生の時に、屋敷を抜けて祭りに行ったんだよ…その時に、」
「私もお母さんと来ててね、伯王たちを見つけたときは驚いたよ」
「へぇ〜、そんなことがあったんだ」

何の疑問も無いように、嬉しそうに笑う良を前にして、今ならどうだろうかと話し始める。

「今なら…俺の方が多く掬えるな、絶対」
「まさか。がさつな隼斗に僕が負けるわけないじゃない」
「なっ!やってみるか!?」
「いやいや、私が一番でしょ?」
「「それはない」」
「えぇっ!?…なんでっ!」

云々…言い合いが延々と続くのを見て困った良が、どこか呆れた様子の伯王に助けを求める。

「…」
「伯王…里來ちゃんたち、どうしよう?」
「ほっとけ…行くぞ、氷村」
「…っ、えぇ!?」

手をひかれて、先を行く。

「あっ、待ってよ伯王!」
「あっ、待てよ伯王ー!」
「あー!ずるい伯王!」

驚いた拍子にあげてしまった声を聞いて、3人が慌てて後を追ってきた。



笑顔の彼女と満足そうな3人の顔が映る。

あの時と…少し違った、幸せがある。



「あ!伯王、次あそこに寄っていい?」
「もちろんいいよ、良ちゃん」
「…なんでお前が答える、」
「伯王に良ちゃんを独り占めなんてさせないからね?」

良を挟んで反対側から顔を出して、いたずらっぽく笑う里來に、言葉に詰まって目を逸らす。

「…ほら。行くぞ、氷村」

屋台を指差す彼女と繋いでいる手を少しだけ強く引いて、そちらに足を向ける。


居心地のいいこの時間が、いつまで続くか…それが、少しでも長ければいい。

そう思った。





「ねぇ、里來ちゃん。金魚掬い苦手なの?」
「え?」
「だってさっき、庵さんと隼斗さんが“里來ちゃんには絶対負けない”みたいな口ぶりだったから…」
「…そんなことも、ないと思うんだけどなぁ」

うーん、と首を捻る里來を見て良が提案した。

「そうだ!皆で金魚掬いやろうよ!」



「よーし、皆準備はいい?」

“おー”やら“あぁ”やら、それぞれから聞こえる声を確認して一息、声をあげる。

「それじゃぁ、スタート!」

思い思いのタイミングで次々に金魚を碗に入れていく男性陣に対し、里來は数匹の金魚を椀に入れたところで、じーっとある1点を見つめた。

「うーん…」
「どうしたの?里來ちゃん」
「量より質、かなぁ…って思って」

視線を追ってみれば、中でも1番大きな赤色が目に入って思わず声をあげる。

「え!?里來ちゃん、あれ掬えるの?」
「うーん…でも、どうせなら大きいのを掬う方が楽しいでしょ?」

面白そうに笑みを零す彼女の性格を思い出した良は、何も言えなかった。

「ほら出た、悪い癖だね」
「里來、金魚掬いは数の勝負だぞー」
「…ちっちゃい金魚掬うんじゃぁ、普通すぎる」
「…そこは普通にやれよ」
「えー、伯王まで言うの?」

不満そうに少しだけ眉を寄せるけど、すぐにぱっと笑顔を浮かべる。

「あ、それじゃぁ、一番大きいのを掬った人が勝ちにしようよ」
そうすれば、それが普通でしょ?

確かに、明確に数で競うと決めていたわけではない。
そう言って笑った里來に、そろって苦笑を零す面々だった。



───お祭娘の発想は、普通と接触しないのが常だ。




従姉弟間の良ちゃん争奪戦(笑)
里來ちゃんはこんな子です。

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