※少しだけ、共通ルート・ネタバレ有です。ご注意ください。
聞いてはいけないものを、聞いてしまった。
そんな予感はしたのだけれど、知らねばならない、そんな気もした。
「お前たち、こんなところで何をしている、来賓室はひとつ下だが?」
「えっ?」
呆れた表情の有馬隊長に、言い訳する言葉も持たず。
「……友部。俺の帰隊後、隊長室へ」
「……承知…失礼いたします」
大きく息を吐いて、本部をあとにすべく歩き出す。
「はああ…また叱責かー…」
「不憫なことだ」
突然、声がした。
先の会話を聞いていただろう、と問われれば、言い逃れもできまい。
「あの時、君と共にいた者は?」
最後に、と続けられた言葉に、少しの間、思案する。
「おりません、私ひとりでした」
「……よろしい」
一時をおいて。
満足そうに頷いたその人の反応に、自分の判断は間違っていなかったと確信する。
「では、その身ひとつに負ってもらおう──」
ただ、ひとつ。
幸さんに、また心配をかけてしまうかな、と、思いながら。
「有馬隊長!片霧副隊長!」
お二人の姿を見て、縋るように問いかけた。
あまりにも必死な私の姿を見て、梓さんや九段殿は、少し驚いた様子。
「幸さん、どうしたんですか?」
隊長方があまり驚いていない様子を見て、不安が募る。
「達夫さんが、帰っていないのです…何か、急なお勤めでもあったのでしょうか、」
「…昨日、隊長室への呼び出しに応じなかったもので、俺も不審に思っていたんだが、」
今朝方、友部の同期の者が伝達に来た。
急遽、東北の歩兵分隊に、異動が決まったと。
「伝達に来た同期の話では、急を要するため…友部は、昨日異動の連絡を受け、すぐに任地へ向かった、と」
……頭が、真っ白になる。
「追って幸さんにも連絡する、と言っていたそうなんですが…」
なぜ。
一目、一言、その時間さえなかったのでしょうか。
「…隊長の有馬や、妻の幸にさえ知らせずに…」
なぜだ、と九段殿も困惑した様子。
「…このような人事、にわかには呑みこみがたい」
…異動先に手紙でも送って、事情を尋ねてみよう。
有馬隊長が、達夫さんのことを話している。
普段であれば、嬉しくてたまらないはずなのに。
…嫌な予感がして、体が震える。
力が入らない…立っていられない。
「幸さん!」
座り込んだ私を気遣うように、梓さんがしゃがみこむ。
気付かぬ間に、頬を涙が伝っていた。
「…達夫さん…大事ないといいのですが、」
「…事情が確認できたら、すぐに幸さんにもお伝えします」
柔らかい声でそう言って下さる片霧副隊長に、よろしくお願いします、と伝えるのが精一杯だった。
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