※少しだけ、九段ルート・ネタバレ有です。ご注意ください。



今日は、午後からの見回りになるそう。
いつも神子様方に同行している方たちの姿が、見られない。

慣れない土地で、忙しく怨霊退治に出る神子様方の気が、少しでも休まれば。
話を聞いてすぐ。そう考えて、菓子を買いに出た。
少しでも、気持ちが明るくなるよう、なるべく華やかなものを探して。


軍邸に戻ると、庭を散歩していたらしい梓さんに出会い。
部屋で休憩中の千代さんに声をかけて、食卓へと来てもらう。

「よければ、召し上がってください」

並べた菓子を見て、神子様方の表情が明るくなったのが分かった。

「わぁ!美味しそう!」

ありがたくいただきます、と席に着いたお二人にお茶を差し出す。
喜んでいただけたようで良かった、と一息吐けば、神子様方から声がかかる。

「幸さんも、一緒に休憩しましょう?」
「そうですよ。ここに座って、お話しましょう」

お二人からの有難いお誘いを断る理由などなく。

「それでは、少しだけ。ご一緒させていただきます」

神子様方とともに、菓子をいただくことになったのです。


どうしてそんな話になったのか、確かな記憶はなく。

「好きな人ができたら、友人として、ちゃんと私に報告すること」

気付けば、いい?といたずらっぽく笑う千代さんに、困った表情の梓さん。
九段殿をはじめ、有馬隊長、片霧副隊長、村雨先生、と。
素敵な男性方とともに日々を過ごす梓さんへ、千代さんが好きな人はいないのか、と問いかけていた。

「…そんなに言うなら、千代の好きな人は?」
「あら、ここぞとばかりに仕返しがきたわね」

困り果てた梓さんが問い返すけれど、千代さんは余裕な表情を崩さずに続けた。

「…仕方ないわね。じゃあ、ここだけの話だけど」

そう言って、これ以上ないほど幸せそうに笑った。
素敵な恋をしている、まっすぐな瞳に、目が釘付けになる。

「私は進さん一筋よ」

お相手は千代さんの家に住みこんでいた書生さんだとか。
親の決めた見合いが流れて喜んでいた、と聞いたことがあったけれど。
これだけまっすぐに慕っている相手がいるのだから、当然のことだと思える。

…私も、一筋ですよ、と告げたら。喜んでくれるでしょうか。

ふと、そんなことを考えてしまう自分に、はっとした。

「そういえば、幸さんはどうなんですか?」

旦那さんのこと、お聞きしても?
興味津々といった風の千代さんと、突然のことに困惑している梓さんとがとても対照的に映る。

私は、軍邸に住みこみでない。
毎日家に帰り、達夫さんと共に食事を摂り、共に眠り、また軍邸で神子様方のお世話をしている。
そんな話はした記憶があるけれど。
達夫さんの話は、まだしたことがなかった気がする。

構いませんよ、と頷いて、神子様方へ。

「私の夫は、とても優しい軍人なのです」

そう、軍人に、あんなに優しい人がいるなんて、知らなかった。
優しくて、強くて、とても頼りになる。だけど、どこか可愛らしい面もある。
出会って間もない頃、気付くと頭から離れなくて、いつの間にか好きだと自覚していた。

「今は、精鋭分隊に。少しでも神子様方の負担を軽くできるように、日々お勤めしております」

目の前の少女たちも、もちろんそうだけれど。
得体の知れぬ怨霊や、最近では憑闇なんて病の者もいるようで。
毅然と対峙しているけれど、きっと恐怖も、不安もあるはず。

私がいることで、少しでも達夫さんの心が休まれば。
少しでも、幸せを感じてもらえたら。
そう、切に願っている。

「…そうだったんですか。それは、」

さぞ不安でしょうね、と目で続ける千代さん。
軍人と結婚したのだから、不安は付き物。
ちゃんと、理解している。

「なるべく早く解決できるように、頑張ります」

梓さんの強い眼差しが向けられる。
強張らせるつもりはなかったのだけれど…失敗してしまったでしょうか。

「…ご無理はなさいませんよう」

皆さんが、無事で、こちらに帰って来てくださることが、今の私の願いなのです。
その訴えは、自分で思っていたよりも必死だったのか、神子様方に笑顔で返答をいただいた。

「もちろんです」
「だけど、皆が早く心穏やかに過ごせるようになるのは、私たちにとっても目標ですから」

可愛らしい姿からは想像もつかないような、頼もしいその言葉を受けて。
誠心誠意、お仕えさせていただきます、と告げるのが精一杯だった。
なんだか、胸がいっぱいな心地だ。


ふと、梓さんが問う。

「ところで、旦那さんのお名前は?」

そうか、神子様方のお目にかかることもあるかもしれない。

「友部達夫と、申します」

お困りのときは、きっと、力になってくれましょう。

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