満足げに笑顔を浮かべて、食卓を見渡す。
今日もしっかり、三人分。
ほかほかのご飯も炊けている。

あとは、皆が集まるのを待つだけ。


「おはようございます、幸さん」

いつも、一番に来るのは千代さん。
今朝の食事も美味しそう、と目を細めてくれている。
毎日こうして気遣ってくれて、喜ばずにはいられない。

「おはよう。む、梓はまだ来ておらぬのか」

次に来るのは、九段殿。
毎日同じように続けて、少し淋しそうな表情を浮かべている。
男の方に向かって失礼かもしれないけれど、なんだか可愛らしい方だ。

「おはようございます、九段殿。梓さんもじきにいらっしゃると思いますよ」

椅子に腰かけた九段殿に新聞を手渡せば、そうだな、と明るい声がした。
そうしていると、白龍の神子様…千代さんが、幼馴染である九段殿を諭すように言う。

「おはよう。九段、朝から幸さんを困らせてはだめよ?」
「何を言う、我は幸を困らせたりなどしておらぬぞ」
「はいはい、まったく…困った星の一族さんね」

むっと眉を寄せる九段殿と、柔らかい微笑みを浮かべる千代さんとの可愛らしいやりとりを聞いていると、最後に黒龍の神子様…梓さんがいらっしゃる。

「おはよう。…ごめん、また私が最後だね」
「おはよう、梓。気にしないで、時間通りよ」

一つ息を吐く梓さんを席に促して、千代さんの言葉を聞く。
これだけ聞いていれば、穏やかな朝の一幕にしか見えないのに。


聞けば、まだ十七歳の千代さんと十六歳の梓さん。
この少女たちの肩に、帝都東京の運命を背負わせてしまっている。

申し訳なさも、なくはない。
けれど、今の私たち市民は、神子様方の力に頼る以外の手を知らない。

だから、せめて。
お二人に、暮らしやすい環境と、栄養のある食事を。
私にも、お手伝いさせてください。


「幸さん?」
「!…申し訳ありません。どうぞ、召し上がってください」

じっと見つめてしまった私に、首を傾げる梓さん。
慌ててご飯を差し出して、笑顔をつくる。

皆が食事を摂り終えるまで。
今日も無事、一日が終わるようにと、祈るばかりだった。

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