…また、だ。
気がつけば、街を見回る帝国軍人の中から彼の姿を探している。
時折、振り返る軍人さんと目が合う気がして、慌てて目を逸らす。
そんなことを繰り返して、自分に呆れて、溜息が出た。
旅館を営む実家で働いていると、色々な方が訪れる。
そして、突然の話が、訪れた。
「お、お見合い?!」
「ええ」
近々、相手の方があなたの様子を見にみえるそうだから、おもてなしして差し上げなさい。
思い浮かぶのは、あの日の、軍人さんの姿。
見回りの途中、街の人へ向ける優しい笑顔。
同僚からからかいの言葉を投げられたのか、照れたような慌てたような表情。
いつの間に、こんなに見ていたのだろう。
仕事ばかりして過ごしてきた私には、縁遠いことと思っていたけれど…
もしかしたら、これが恋だったのかもしれない。
…いや、もうこれ以上思うことはやめておこう。
そう、確かに思った。
いつもより、少しだけ仕立ての良い服を着て、少しの不安を抱えて、待つ。
お見合い話を持ってきたのは、以前何度かおもてなしした方だった。
すっと頭を下げて、出迎える。
「遠いところ、ようこそおいでくださいました」
声が硬くならないよう、心を配る。
我ながら、諦めの悪いこと。
「突然の話、驚かれたことでしょう」
優しい声色の後ろで、足音がした。きっと見合いのお相手だ。
先の言葉に、いえ、と言葉を返そうと、顔を上げた。
「……あ、」
言葉が出なかった。
目が合った彼が、恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
それを見て、一気に体温が上がったのを自覚した。
「…お久しぶりです、ね」
告げられたその言葉に、驚いて。信じられなくて。
高鳴る胸だけが、うるさかった。
「…早くご案内して差し上げなさい」
「はっ、はい!こちらへどうぞ、」
小声で母に促され、慌てて立ち上がった。
「改めまして、友部達夫と申します」
彼は、あの日と同じだった。そう思う。
「…わ、私は、幸と申します、」
胸が高鳴って苦しいのも、うまく声が出ないのも、私だけだった。
出会った日以降、怖い思いはしていませんか、と気遣ってくれたり。
調子の良いことを言って、隣から諌められたり。
そんな全てが、きっと彼の魅力なのだと、思い知った。
そして。
幸せな気持ちのまま時はすぎて、最後。
「また、私と会ってもらえますか?幸さん」
その後のことは、あまりよく覚えていない。
後で聞いたところによれば。
俯いた私は、本当に小さな声で、はい、とだけ応えたのだそう。
← ○ →