ドレスに身を包んだ黒龍の神子様は、本当に神々しい。
しかし、ただの女の子としての面も知っているから…その強張った表情が、勿体なくてたまらない。
「綺麗ですよ、梓さん」
静かにそう呟けば、少し恥ずかしそうに目を伏せる。
じきに、エスコート役を賜った方が迎えに来て、梓さんと共に歩いていく。
「…お気を付けて」
その背に言葉を投げて、祈るように手を握る。
お願いだから、これ以上、誰もいなくなったり傷ついたりしないでほしい。
こんなに胸が苦しい日々は、耐えきれそうにないのだから。
「幸さん!幸さんはいますか!」
慌ただしい声が、軍邸に響き渡る。
きっとまともに食事もとれていないだろう梓さん達のために、軽く夜食でも作ろうかと考えていた矢先のことだった。
精鋭分隊のその人は、青い顔で、震えながら伝えてくれた。
「と、友部が…!」
数日前に足を運んだ病院に、再び訪れる。
伝え聞いた話は、とても一人で受け止めきれなくて。
走り慣れない足を拙く動かして、彼の元へ急いだ。
少し離れた病室で、他の隊の方と共に。
憑闇になっているのだという彼は、いわゆる隔離状態で。
「……呼吸、している…」
数日が、何年もの長い時に感じた。
行方の分からなかった彼が、目の前にいる。
深い眠りについたように、ただただ静かに呼吸する姿に、心底安堵した。
お医者さまは残酷だ。
せっかく目の前に達夫さんがいるのに、目を覚ます保障はないし、目が覚めたとしても元の意識が戻ることは難しいだろうと言う。
きっと、それが真実なのでしょう。
「…良かった、」
それでも。
あなたが、ここにいて。本当に嬉しい。
大きな手が、そっと私の手に触れて、包み込む。
幸さん、ここに、いますよ。
体調を崩すと、必ず心配そうな面持ちで、そう言ってくれた。
頑張って向けてくれる笑顔に、どれだけ心が安らいだことか。
私も、同じように、できるでしょうか。
……達夫さん、
「ここに、いますよ」
あなたが目を覚ますまで、何度でも。
震える手で、ぎゅっと彼の手を握りしめた。
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