窓の外に、厚い雲が見える。
朝は晴れていた空を隠し始めた雲が、しだいに雨を降らせていく。

…ただ、今日はそれだけで終わらなかった。



雨の日の君と



「…ここは、───」

3限目の授業がいつもどおりに進むなか、雨は強さを増してきた。
そして…光とともに、空の唸る音が聞こえた。

「…っ!!!」

咄嗟に左隣の露海を伺ってしまう。
雷が鳴るたびに身を縮こまらせて、泣きそうな表情を必死で堪えている姿。

すぐにでも…抱きしめて、耳を塞いであげたいけど。

生憎、今は授業中で…そんなことを先生が許してくれるはずもない。


いつもは大好きな窓際の席も、今日ばかりは嫌で堪らないだろうね。
何もしてあげられないことが、凄く悔しい…。
その瞳に溜まった涙を拭うのが僕の役目なのに。

そんなことを考えていたとき、話を続けていた先生の声が耳に入る。

「はい、それじゃぁ…参考書出して」

ふ、と。
思い浮かんだ。
露海を、助けにいける方法───


先生、
「参考書を忘れたので、見せてもらいますね」

そんなの、嘘。
参考書なら、ちゃんとここにある。

僕が忘れ物なんて珍しい、と零す先生に苦笑を返して…僕の机を露海の机と並べる。

「…ちょっと、ごめん」

申し訳なさそうに微笑みながらそう言って、もう一度席に着くと、驚いたような表情で僕を見つめる露海。
まぁ、この騒がしい教室の中…しかも雷の音を聞かないようにしてただろうから、さっきの話は聞こえてなかったのかな。

「参考書、見せてくれる?」
「え…あ、うん…」

机の中にある参考書を手探りで探そうとするけれど…。

そのとき、遠くで光が見えた。

先生があっちを向いているのを素早く確認して、露海の頭を抱えるように抱きしめる。

それでも、大きな音は防ぎきれなくて…僕の腕の中で、露海が小さく震える。

あまり長い間こうしているわけにはいかないから…と。
仕方なく腕を離してから、露海に小さく囁く。

「大丈夫だよ、露海…僕が、ここに居るから」

「…周、助」

優しく微笑むと、驚いたように僕の名前を呟く。


それから、暫く。

露海に大丈夫、と言い聞かせたり…時折、耳を塞いであげたり。
その度に震える君を抱きしめてあげることは出来なかったけど、ようやく。

「…今日はここまで」

先生の言葉とともに、生徒が立ち上がる。
ありがとうございました、と礼をして…着席、のはずだけど。

このとき、一際大きな光が見えた。

「…っ!周助っ!」

咄嗟に振り向いた僕と、僕にしがみつく露海。
今にもしゃがみこみそうな露海をしっかりと抱きとめて、耳を覆う。

少し経って、音の止んだ頃。

「…、大丈夫?」

そう言って顔を覗き込めば、苦し紛れに笑って応える君。

だけど、続いた言葉が…。


「…大丈夫…、だって」

周助が、居てくれるから───


僕を、どれだけ溺れさせるのか…。
きっと…君は、気付いていないよね?

少し離した体を、もう一度ぎゅっと抱きしめる。
恥ずかしがって否定する声なんて、今は聞いてあげないよ。

ねぇ、もう少しだけ…このまま───




先生気付いて!注意して!皆もスルーしないで!
そんなツッコミをいれてやりたい←

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